きこりの男     

 

「おーじさーん。」
 遠くから聞こえてきた声に俺は薪割りの手を止めて振り返る。
かなり遠くの森の中に、懐かしい姿を二つ、確認した。
 一人は、巨漢である俺と同じくらいのサイズをしている虎。
大きな体にズボンと上半身裸の姿で斜面を登ってきている。
昔から「裸で山に登るな」と言ってあるのだが言うことを聞いたためしはない。
 もう一人は虎よりも小柄な熊。
俺と同じ熊獣人でありながら体の大きさはかなり違う。
小さなころから愛用しているオーバーオールはいまだにサイズがぴったりのようで、
今回もいわゆる「余所行き」として着てきたようだ。
いい加減膝のあたりが擦り切れたりしてきているのに、アップリケをつけていまだに愛用している。
先ほど声をかけてきたのはこの熊の方だ。
俺は無言のまま大きく手を振り二人に答えてやった。

 

 俺の名前はアレグロ。
生粋の熊獣人で、現在はきこりとして森の丸太小屋で一人、暮らしている。
自分で言うのもなんだが、きこりをしているだけあって体は相当ゴツイ。
町におりればそこいらのチンピラはもちろん、並の格闘家くらいなら負けるつもりはない。
歳のせいか最近少し脂肪がついてきたようにも思えるが、腹が出ているというほどでもない。
まだまだ現役で通じるつもりだ。
 ちなみに、今暮らしている丸太小屋も自分で建てたものだ。
昔親と喧嘩して家を飛び出した後に俺はこの山にこもった。
街中で暮らすよりはこっちのほうが性にあっていると思ったのだ。
初めて作ったものに違いないから、隙間があったりといろいろと困った点はあるものの
10年以上暮らせば愛着も湧き今では胸をはって自慢の我が家と言うことができる。
虎も熊も、そんな俺の家を好んで訪れていた。

 

「よう、お前ら変わってねえなあ。」
 そういって俺は背の低い熊の頭をぐりぐりと撫でた。
「おじさんこそー。」
 そういって熊はくすぐったそうに目を閉じた。
虎も隣で無言のまま笑顔を浮かべている(たぶん。こいつは表情が読みにくい)。
「まあとりあえず入れよ。冷たい茶でもいれてやるから。」
 そういって俺は二人を我が家へと招きいれた。
二人もあたかも自分の家であるかのようにごく自然に室内へと入ってくる。
俺と虎が歩くだけで家はギシギシと悲鳴を上げる。
それでも床が抜けるようなことはない。
 俺は残り少なくなった氷を削るとグラスに浮かべ、そこにぬるい茶を注いでやった。
二人は茶に口をつけることなく、懐かしそうな顔で家の中を見回している。
屋根にはさすがに隙間はないが、南の壁から差し込む幾筋かの日の光や、
窓からのぞく緑の風景。
こいつらが子供のころにつけた柱の傷。
そしてお世辞にも綺麗とはいえない机やベッド。
この家の中はこいつらが始めて来た時から何一つ変わってはいなかった。
「こっちもかわってないねー。」
 熊はのんびりとした声でそういった。
虎も無言のままこくこくとうなづいている。
「レントよう・・・。お前、前にもましてしゃべらなくなってねえか?」
 俺がそういうと虎は「そんなことはない」とでも言うかのようにふるふると首を横に振った。
「いや、少なくとも初めて会ったときは挨拶くらいはしてたぞ。なあ、ラルゴ?」
 不思議そうな顔をしながら熊は顔を上げた。
どうやら茶を飲むのに没頭して俺の話を聞いていなかったらしい。
こいつも相変わらずとろいやつだな・・・。
俺は小さくため息をついた。
「昔はこいつ、もっとしゃべってたよな?」
 虎を指差しながら改めて熊にそういう。
熊は少し首をひねった後、ようやく答えを思いついたかのように口を開いた。
「・・・よく覚えてないやー。」
 熊に期待した俺が馬鹿だった。
まあ俺も同じ熊なわけだが、同族としては少し情けなくなってくる。
「ラルゴ・・・。お前もう少ししっかりしないとだめだぞ。」
「はーい。」
 返事だけは一人前なんだがなあ・・・。
ふと、虎の方に視線を向けると部屋の隅のほうをじっと見つめていた。
その真剣なまなざしに俺もつられてその方向を見る。
視線の先には汚い毛布がくしゃくしゃになって放置されていた。
「ああ、これかあ・・・。」
 俺は椅子から立ち上がり毛布を拾い上げた。
今までは汚い部屋の一部と化していたから特に気にも留めなかったが、
考えてみればこれはこいつらと俺が始めて出会ったときの思い出の品なのだ。
「おいラルゴ。これ覚えてるか?」
 虎が無言で熊を見つめていたので、俺が代弁して質問してやる。」
「あー。あーあーあー。」
 覚えているといいたいらしい。
口をあけたままぼんやりとあーあー繰り返していた。
こいつらほんとに性格に磨きがかかってないか・・・?

 


 俺とこいつらが始めてあったのは、ある嵐の日。
仕事をしていた俺が雨風に追いつめられるように自分の家に飛び込むと、
いるはずのない子供が二人、俺の家の真ん中で一枚の毛布に包まって震えていたのだ。
どこから来たのかは聞いても答えなかったが、俺も家出経験者としては放っておけなかった。
とりあえず飯を食わせて、話を聞いたがどうにも要領を得ない。
俺はしばらく子供たちの面倒を見、しばらく様子を見てから近くの町の孤児院に預けることにした。
幸い二人とも聞き分けはよく、素直に町へと降りていった。
今ではたまにこうして遊びに来るだけの関係になっている。
それでも二人は俺を親のように慕っているのだ。

 


 昔話にも一通り花が咲き、ちょうど日も暮れてきたころに熊の腹がなった。
「レント、お前も腹減ったか?」
 俺の問いに虎はこくこくとうなづく。
相当腹が減っているらしい。
「そういやお前ら昼食ってないんだろ。」
 俺はとっておきの肉をフライパンの上に放り投げると強火で一気に焼き始めた。
「待ってろ、すぐ焼くからな。」
 俺たちがあった日は必ずステーキだ。
昔からご馳走といえばステーキで決まり、である。
フライパンから立ち上るもやもやとした煙は家のそこかしこにある小さな隙間から外へと出て行った。

 あっという間に焼きあがった肉を二人はがつがつとむさぼるように食べた。
「お前ら・・・変なところで男らしくなってるな・・・。」
 俺の言葉に二人は答えることなく、一心不乱に肉に喰らいついている。
俺は少しあきれながら一人、酒を飲んだ。
とっておきのぶどう酒の味が舌に、喉にしみこむように感じられる。
どんなに憎まれ口をたたいても、どんなにお互いを馬鹿にするような言葉を吐いても
俺たちはこうやって三人でいる時間が一番好きだった。

 

 

 どんなに楽しい時間も、どんなにつまらない時間も時の流れは等しく訪れる。
やがて日は沈み、つきが上るとあたりは暗闇に包まれた。
万一のことを考えて家にはランプが置いてあるが、必要のないときはそれをつけることはない。
日が沈めば眠り、日が昇ればおきる。
この家に暮らすものはみなそのルールに則って生活するのだ。
 今日も、二人ともそのルールに従い即席で作った寝床にもぐりこみ早くも寝息を立てていた。
そんな二人の寝顔を眺めていると、酒が入っているにもかかわらず俺はなんだか眠れなかった。
久しぶりに会った息子が成長していた、というのはまさにこういう心境なのだろうと
柄にもなく父親気分に浸りながら俺は二人の寝姿を見つめていた。
虎も熊も、昼間に着ていたのと同じ服装で寝ている。
オーバーオールなどきつくて眠れそうにないのだが、この熊はなぜかこれを着て寝るのを好んでいた。
 俺はふと、窓の外を見上げる。
窓の外には、大きな、丸い月が見えた。
二人を起こさないように足音を忍ばせながら俺はゆっくりと家の外へと出た。
月明かりに照らされ、怖いくらいに明るくなった森の中で俺は手近な岩に腰掛けた。
 満月の夜にはいつもかかさない行為。
二人が来ていることを考えるとためらいがあったが、
先ほど見た様子ではぐっすりと眠っている様子であった。
あの様子なら大丈夫だろう、と考え俺は自らのズボンを下ろした。
そこには下着の褌を突き破らんばかりに怒張した男の象徴があった。
満月の夜は獣人にとって(かどうかは正確には知らないが、少なくとも俺にとっては)発情する夜だ。
俺は満月の夜はいつも決まって月の下で自慰にいそしむ。
今日も、俺の体は開放を求めていた。

 褌の結び目に手を伸ばし、ゆっくりと戒めを解く。
それははじけるように、一気に褌を跳ね除けてその姿を現した。
月明かりの下、黒々としたその姿を見せる自分のものに俺はゆっくりと手を伸ばした。
いつになってもこの緊張感がたまらない。
やがて、俺の熱い肉棒に右手の感覚が伝わった。
右手にも、熱く硬い棒状の感覚が入ってくる。
俺はそれをゆっくりと撫で回した。
「ああ・・・。」
 思わず声が漏れる。
最後に抜いたのはこの前の満月の夜。
つまりおよそ一月前。
決して精力が弱いわけではない俺はすっかり溜まっていた。
考えるのは大抵昔付き合っていた女や風俗で抱いた女のこと。
昔の感覚を思い返すようにして俺は自分の肉棒をゆるゆるとしごく。
決してあせらず、ゆっくりと自分を追い詰めるようにしごくのだ。
「ん・・・。」
 先端から液体が漏れ出してきた。
俺の手に液体がたどり着くとずるり、と亀頭が俺の手の中をすべり小さく暴れた。
「はぐっ・・・。」
 予想外の自分のモノの動きに俺はまた声を上げていた。
いつもならもっと大きな声も上げるのだが、今日はさすがにそういうわけにもいかない。
だが、その行動が俺に背徳感を感じさせ、さらなる興奮へと導く。
いつしかくちゃくちゃと液体がこすれる音を立てながら、俺は月明かりの下で一人
口を大きく開け、よだれをたらしながら一心不乱に肉棒をしごいていた。
「んっ・・・いくっ・・・。」
 俺はとっさのところで手を止めると射精してしまわないように気をつけながら自分をいったん静める。
こうやって直前を何度も楽しみ、もう限界というところまでいってから射精するのが俺の自慰の仕方だ。
射精感が収まってきたのを確認してから俺は再び右手で肉棒をつかむ。
今度は左手で玉をもみながらしごきあげた。
先ほどよりも大量の液体にまみれながら俺はさらに自分を追い込んでいく。

「ふうぅっ!くぁぁあぁぁっ!!」
 そうやって何度も絶頂感を味わった後、俺は大声を上げながら自分の腹の上に射精していた。
「はぁ・・・はぁ・・・。」
 思わず大きく息をついてしまう。
久々の射精はそれだけの快感を俺にもたらした。
 少しずつ引いていく快感の余韻を味わいながら俺は軽くため息をついた。

 

 

 呼吸が整ったところで、俺は褌をしめるために岩から立ち上がった。
その時になってはじめて気が付いた、人影。
見慣れた丸太小屋の前に、二人の人影があった。
レントとラルゴは何を考えているのか、こっちを見つめたままぼんやりと立ちすくんでいる。
俺も二人の視線を感じたまま動きを止め、完全に固まっていた。
三人の間にいやな空気が流れる。
これは俺から動かないとまずいよな・・・。
「あー・・・」
 俺が口を開こうとすると、熊が動いた。
今までに見たことのないような速さでこちらに駆け寄ると、そのままの勢いで俺に抱きついた。
「うおっ・・・?」
 押し倒される形で俺は先ほど座っていた岩の上に仰向けになった。
熊はそのまま俺の上に覆いかぶさるように飛びついてくる。
熊越しに大きな月が見えた。
「おい、お前・・・」
 精液がつくぞ、といいたかったが俺の口からは言葉は出なかった。
熊が、俺の口に自身の口を重ねてきたのだ。
「んぉっ!?」
 とっさに払いのけ声を上げる。
熊は俺を見下ろす形で俺のことをじっと見詰めていた。
気がつけば、オーバーオール越しに熊野硬いものが俺の脚に押し付けられている。
こ、こいつ本気か・・・?
そう思っていると、今度は虎が俺を押さえつけキスしてきた。
お前まで・・・。
 そう思っていると俺が虎にキスされている間に、熊は俺の乳首を舐め始めた。
やめろといいたいが、虎の口付けは熊と違いそう簡単に払いのけることはできない。
全力を出せばそれも可能だろうが、この二人相手に全力というのもはばかられる。
そう思っている間にも虎は俺の口内に舌を進入させ、
熊は俺の乳首を探り当て、片方を舌でもてあそびもう片方を指でつまみあげる。
意外と気持ちがよかった。
いや、そうではなくて・・・。
 動こうとした俺の手を、虎が押さえつけた。
熊は俺の乳首をいじりながら、さらに下りていく。
俺の体を舌で確認するように舐めながら下りていくため、毛皮についた精液が熊に飲み込まれていく。
 俺の口から虎の口が離れた。
二人の間に光る糸状の唾液が伸びる。
虎のまっすぐな瞳が卑猥に思えた。
熊の口がついに俺のモノを捉えた。
先ほど射精していながらいまだになえていないそれを熊は根元まで一気にくわえ込んだ。
ぬるり、と暖かいものに包み込まれた感覚に俺は思わずのけぞった。
のけぞったときにあたる岩が背中を痛めつける。
「はっ・・・よせっ・・・。」
 発情期であり、しかもここしばらく誰かにしゃぶってもらうなどしていなかった俺は、
熊の稚拙な技術でもすぐにイってしまいそうなほどに感じていた。
俺が熊から何とか逃れようと腰をくねらせる。
しかし熊はそれに追いつくように動きながら、裏筋や雁首を丹念に嘗め回した。
虎は俺の手を離し、乳首を攻めながら自分のズボンを下ろした。
股間からは俺よりも大きいんじゃないかと思うほどのものがそそり立っていた。
「おま・・・・。」
 俺が思わず絶句していると、虎は俺の手を取り自分のものを握らせた。
軽く握るだけで先端から先走りがあふれ、俺の手をぬらす。
初めて握った他人のモノは、硬くもありやわらかくもあった。
思わず俺はそれをかるく上下にこする。
虎の体がビクン、とはねた。
 熊は俺のものをしゃぶりながら俺の肛門を指でゆっくりと撫で回した。
「そ、そこだけは勘弁してくれ・・・。」
 俺の言葉に熊はすっと指を引いた。
安心感から俺は地作ため息をつく。
熊は飽きずに俺の肉棒をしゃぶり、先端からあふれているであろう汁を飲み続けていた。
俺の腰もいつの間にか快感で前後に動いていた。
空いた手で熊の頭を軽く押さえ、前後運動を促す。
 虎は俺の手を自分のモノからはずさせると、俺の目の前に仁王立ちになった。
しゃぶれってことか・・・?
思わず否定しようとしたが「それだけは」と言って尻を拒絶した手前、
それ以外をしないわけにはいかなかった。
熊が自分にしていることをするだけだ、と言い聞かせ俺はそれの先端を恐る恐る口に含んだ。
汁にまみれた先端は男くさい味がした。
好奇心で一度舐めたことのある自分のものと同じ味だ。
俺がそこから先に進めないでいると、虎は俺の頭をつかみ根元まで押し込んできた。
「むぐぅっ。」
 虎の先端が俺ののどをつく。
その反応に気づいたのか、虎が軽く腰を引いて俺の苦しみを和らげる。
その礼、と言うつもりで俺は虎の亀頭を嘗め回した。
虎の息が荒くなり、ひざが笑い出す。
 そのとき不意に熊が俺のものを口から解放した。
与えられていた快感がなくなり俺は思わずそちらを見た。
熊が、オーバーオールを脱ぎ捨て全裸になった。
俺の上にまたがるようにして股間を重ねてくる。
俺は自分の肉棒を通して熊の熱を感じた。
若いだけあって相当熱く、硬い。
熊は自分のモノと俺のモノをいっぺんに握ると、それを扱き出した。
熊の液体と俺の液体が混ざり、ぐちゃぐちゃと音を立てる。
それに加えて、俺が咥えている虎の性器からもくちゅくちゅと音が鳴っているようであった。
辺りに卑猥な音が響く。
俺はもうどうでもいいような、むしろこの状況を楽しんでいるような心境になりながら、
腰を振り自分のものを熊にすりつけ、舌で虎のものを嘗め回した。
 三人の卑猥な息遣いが辺りに響く。
そして、最初に達したのは虎だった。
「・・・イくっ。」
 小さくそういうと俺の頭を抱え込み、俺の口内に大量の精液を放った。
俺の口の中に生臭いにおいが広がる。
とっさに俺はそれを飲み込んでしまった。
飲み込みきれない分が口の端から流れていく。
そして、熊が達した。
「ああっ、おじさん!」
 俺の上にぼたぼたと熱い液体が飛びちる。
それに加えて、俺の熱い液体が再び発射された。
三人分の熱い精液を体中に浴びて、俺は呆然としていた。

 

 


「お前ら・・・。」
 ひとまず川に行って水を浴び、全員綺麗になったところで俺は言った。
「だって・・・おじさんセクシーだったし・・・。」
 うつむき加減で熊がそういう。
隣で虎がこくこくとうなづいていた。
「セクシーだったら男でも手を出すのかっ!?」
「うん。」
 即答だった。
軽いめまいがした。
「本当は・・・」
 熊がそんな俺を見ながらさらに口を開いた。
「いつもみたいにおじさんが寝てからするつもりだったんだけど。」
 ・・・いつもみたいに?
俺が不穏な空気を感じて聞きたいことを聞けずにいると、虎が駄目押しの一言を発した。
「僕らがいつも来たとき、寝てるおじさん犯してるから。」
 俺はめまいでその場に倒れた。
いつも犯されてたのかよ、俺は!
「おじさん後ろのしまり具合いいんだよねー。」
 熊の能天気な言葉を聴きながら俺は情けなくて涙が出そうだった。

 


 ちょっとは気づけよ、俺。

 


                                            完