北の街 −一夜の夢編−

 

 僕は荷物を地面に置くとそのうえにゆっくりとすわり空を見上げた。
雲に覆われた暗い夜空に僕の気持ちは余計に滅入ってくる。
空を見つめるのを止めて、僕は下を見た。
見慣れた地面。
どこにでも転がる石ころ。
どこを見てもつまらない。
 僕は大きく溜息をつくと荷物を抱えてふたたび立ち上がった。
今日はこの荷物を倉庫まで運ばないと眠らせてもらえない。
別に僕は奴隷って訳じゃない。
そもそもこの国には奴隷制はないから。
僕がこんな事をしてるのは、僕が養子だから。
両親を無くし、行き場所をなくした僕を引き取ってくれた養父母には感謝している。
だから僕はこうやって、毎日働きづめだ。
「ディラック、さぼってるんじゃないよ!」
 家の中から養母の声が飛ぶ。
「申し訳ありません。」
 僕はそれだけ言うと思い荷物を背負って必死で歩みを進めた。
何が入っているか知らないがやたらに重い。
掌に血をにじませながら、僕は必死になってそれを倉庫に運び入れた。


 この家に来た時から、ずっとこんな扱いだったわけじゃない。
子どもがなかなか生まれない夫婦に貰われて、最初のうちはとても大切にされていた。
それでも、やがて子どもが出来ると僕という存在は疎まれるようになった。
僕は狼だけれど、老父母は二人とも猫獣人だ。
たぶん、同属じゃないことも関係あるんだろう。
僕は大きくなるにつれ、少しずつ家の仕事をさせられるようになった。
最初はお手伝いのようなものだったが、最近は掃除洗濯買い物に始まり
仕事と名のつくものはほとんどすべて僕がこなしていた。
そして与えられているのは窓もない、一番小さな物置のような部屋。
それでも、僕にはここまで育ててもらった恩がある。
どうせ何処にいても役立たずなのだ。
せめて置いてくれている家でくらいは、役に立たないといけない。
それでも毎日怒られてばかりだ。
養母は口癖のように「役立たず」と僕をののしり、
養父は最近では僕に話し掛けようともしない。
僕は必死だった。
ここにしか、僕が生きていられる場所はないから。
どんなに辛くても僕はここでしか生きられないから。

 

 けだるい疲労感のなかで僕は目を覚ました。
いつもどおりの時間に、いつものように僕は台所へ向かう。
食事だけは養母が作っていた。
自分達が食べるものを僕が触るのを好んでいないらしい。
「奥様、おはようございます。」
 最近では「お母さん」と呼ぶことさえ許されない。
僕が挨拶すると養母は一瞥をくれるだけで何も言わずに再び料理に戻った。
僕もそれ以降は無言で養母の手伝いをする。
 やがて料理が出来上がるとそれを食堂へと運ぶ。
もちろん僕の分は別だ。
僕だけは、同じ食卓を囲む事は許されない。
一人違う部屋で、あまりモノのような食事を食べる。
それが終わったらいつものように掃除から始めて、一通りの家事をこなす。
今日もまた変化のない一日だ。
「ディラック!」
 養母の声が聞こえる。
僕は掃除の手を止めて大急ぎで養母の元へ急いだ。
「買い物に行ってきなさい。買うものは書いてあるから。」
 そう言って僕は養母に幾ばくかの金と、メモを貰う。
僕は養母に掃除中であることだけを伝えると慌てて家を出た。
買い物は好きだった。
たとえ決められたものしか買えなくても、表にでるのはいい気分転換になる。
僕の養父はけっこうあくどい商売なんかもしているらしく、
決して誰かが話し掛けてくれたりすることはなかったけれど。
しかし、どちらにせよ道草は禁止されている。
僕は雪に覆われた街並みを眺めながら歩いた。
 道端に置かれた段ボールが目にとまった。
雪に半分ほど埋まった段ボール箱から犬の鳴声のようなものが聞こえた気がした。
なんとか、気にしないようにその場を立ち去ろうとした。
しかしその努力は無駄だった。
突然はっきりと聞こえた鳴声で、その中に犬がいることがわかってしまった。
僕は段ボール箱に近寄りうえに積もった雪を払うとそっと空けてみた。
そこにはまだ生まれて間もない子犬が二匹。
 僕は途方にくれた。
連れて帰るわけにはいかない。
養父母が犬を飼うことなんて許すはずがないから。
だからといってここにこのまま見捨てる事も出来ない。
最後に雪がふったのは昨日だ。
この箱のうえに雪が積もっていたという事は昨日から誰も興味を示さなかったということだ。
このまま放っておいたら凍死が先か、飢え死にが先かという状況だ。
かといって食べ物だけを与えるというのも無理な話だ。
僕には買い物を済ませるだけの最低限の金しかない。
・・・そして、ここに留まっているわけにもいかない。
早く帰らないと養母にまた怒られてしまう。
どうしようもない無力感。
この子達を見捨てようとする自分にたいする罪悪感。
そんな自分がくやしかった。
やっぱり僕には何もできないのだ。
あふれそうになる涙を抑え、必死で訴えてくる子犬を振り払うようにして僕はその場を立ち去った。


 買い物帰りに同じ場所を通る。
やはりそこに彼らはいた。
僕が立ち去った時そのままに。
かれらの声に引かれるように僕はその箱の前で足を止める。
「捨て犬・・・か。」
 突然後からかけられた言葉に僕はその場で飛び上がった。
慌てて後を振り向くとそこにはやはり驚いた顔の、虎獣人。
「すまん・・・驚かせたな。」
 そういって彼は僕の頭にぽん、と手を置いた。
僕は慌てて否定するために首を横に振る。
頭の上の、手の重さが心地いい。
頭をなでられるのは何年ぶりだろう。
僕の心臓は突然激しく動き出した。
男は顔に大きな傷があった。
ずいぶん前についたものだろう古傷が左眼をまたいで縦に伸びている。
流れの傭兵なのか、逞しい体の上には厚い鎧と大きな剣。
「お前が拾うのか?」
 僕の頭から手を離し、僕の隣にかがみこんでそういった。
子犬を抱き上げ頭をなでてやっている。
「いえ・・・養父母が許しません。」
 僕は外にいるときでも「父」や「母」と呼ぶことを禁止されている。
僕の立場を僕自身や他の人たちにはっきりさせるためだそうだ。
「お前、養子か・・・。」
 子犬を見つめていた目がこちらに向けられる。
優しい目だと思った。
僕の心拍数は上がりっぱなしだ。
顔が火照るのがわかる。
もっとも毛に覆われているので人間のように顔が赤くなる事はないけれど。
「俺も拾うわけにはいかないしな・・・。いい人に拾われるのを待つしかないか。」
 そう言って彼は子犬を箱の中に戻した。
かわいそうだが、しょうがない。
面倒もみれないで連れて帰るほうが無責任だ。
「お前今時間あるか?」
 立ち上がり、再び僕の方に顔を向けて彼は聞いてきた。
僕は下を向いて、首を横に振った。
出来ればこの人と話をしたい。
このヒトのことをもっと知りたい。
こんな気持ちは初めてだ。
でも、僕にそんなことは許されない。
「家の仕事をしないといけませんので・・・。」
「じゃあ仕事終わってからならどうだ?」
 それも首を振らざるをえない。
家の仕事が終わってからの外出は禁止されているのだ。
そのことを告げると、彼の逞しい腕が僕の首に回される。
突然寄せられた顔に僕は緊張して尻尾をピンと伸ばす。
「だったら、抜け出してこいよ。な?」
 小声で、耳元に囁かれるその言葉に僕は頷くしかなかった。
あまりの緊張に、はやくその呪縛から解かれたくてぼくは必死で頷いた。
「よし。じゃあ今晩ここで待ってるぞ。」
 それだけ言うとそのヒトは去っていった。
僕は呆然とそのヒトの後姿を見送った。
初恋だった。

 

 家に帰ると養母に「遅い」と、こっぴどく叱られた。
それでも僕は平謝りに謝ると、大急ぎで残っている仕事をこなしにかかった。
今晩にはまたあのヒトと会えるのだと思うととても嬉しかった。
抜け出す時の事を考えると憂鬱になるけれど・・・。

 

 その夜、皆が寝静まったのを確認して僕はトイレの窓からこっそりと抜け出すと大急ぎで彼との約束の場所に走った。
早く会いたい。
それだけが僕のすべてだった。
やがて白い風景の中に、黄色の毛皮の虎が見えた。
どこかに宿でも取ったのだろう、今は鎧も剣も身に付けていない。
太い手足や厚い胸板が遠目にもわかる。
僕はさらにスピードを上げて彼のもとへ走った。
「お、遅かったな。」
 そう言って彼は僕に笑顔を向けた。
「申し訳ありません、急いだんですが・・・」
 そういいかけた僕の頭をくしゃくしゃとなでると、彼は再び笑顔を見せた。
「自己紹介してなかったよな。俺はロックだ。お前は?」
「ディラックです。」
「いい名前だな。」
 そう言って彼は再び僕の頭をなでた。
僕はそれが心地よくて、しばらくそれだけを感じていたかった。
「ディラック、お前いくつだ?」
 一瞬なにを聞かれたのかわからなかった。
だがすぐに歳のことだと気付く。
「17になったばかりです。」
「じゃあ酒はいけるな。」
 そういって彼は僕の手を引き歩き出す。
本当はまだ成人したわけじゃないから酒が飲めるわけじゃないけれど、
彼に握られた手のことばかりが気にかかってそれどころじゃなかった。
僕は彼の背中を見つめながら、彼に手を引かれてどんどん知らない道に入っていく。
「星が、きれいだなあ・・・。」
 彼が空を見上げてそう言った。
僕もつられて空を見上げる。
そこには数多の星が、空一杯に広がっていた。
「星、好きか?」
 彼の問いに僕は困った。
いつもは夜空なんか見上げない。
いつだって僕はしただけをみて歩いているのだから。
「俺は好きだな。宇宙を感じる。何があるかは知らないが、無限の広さを感じる。
それは多分、夢幻につながるんだ。」
 そういって照れくさそうに彼は笑った。
再び僕の手を引いて歩き出す。
やがてたどり着いたのは一軒の居酒屋。
そこには『氷室』とかかれている。
彼は僕の手を引いたままその店の暖簾をくぐった。
「いらっしゃい。」
 決して愛想がいいとは思えない声に歓迎されて、僕は店の中に入った。
熊のように毛深く、ごつい体をした人間の店主。
そして客は僧侶らしい格好をしたリザードマンが一人だけだった。
僕達はカウンターでなく、テーブル席につく。
やっとそこで僕の手は開放された。
彼に握られていた手はまだ熱い。
僕は、彼が適当に注文した酒がくるまで、恥ずかしくてずっと自分の手を見つめていた。
 彼に促され、酒の入ったグラスを持つと乾杯をする。
酒のにおいが鼻につく。
とても飲めそうではなかったが、彼がおごってくれるものを断るわけには行かない。
僕はそれを無理矢理胃の中に流し込んだ。
「あの・・・。」
 僕は思い切って口を開く。
「どうして誘ってくれたんですか?」
 予測していたのだろう。
そう聞いても彼は驚くことなくどこか寂しげな笑顔を僕に向けた。
そして彼はゆっくりとしゃべりだした。
「そうだな・・・。お前が昔の俺に似てたからな。
俺も養子だったんだよ。
そして、お前みたいな寂しい目をしていた。
聞かなくても大体わかる。
お前も何か、辛いんだろう?
だからな。
なんていうか・・・、元気付けてやりたかったんだよ。
気晴らしくらいにはなると思ってな。」
 その言葉だけで僕は嬉しかった。
彼が僕の事を気にかけていてくれる、という事だけで僕は満足だった。
 それからしばらく、僕たちはいろんな話をした。
といっても僕には話すことなんてほとんどなかったから、
大半は彼が旅をしていて見たこと、体験したことだった。
見たこともない街の外の話に、僕は興奮しっぱなしだった。

 

 そんな楽しい時間にもやがて終わりがおとずれる。
一通りの話が終わった頃、どちらからでもなく場の雰囲気で席を立った。
初めて飲んだ酒に足取りがふらつく。
そんな僕を彼は横から支えてくれた。
彼が代金を払い店を出る。
「ご馳走様でした。」
「いやいや、俺も楽しかったしな。」
「ホントに・・・僕なんかとこんなに話してくれて、ありがとうございました。」
 そう言って僕は頭を下げる。
だが頭を上げたとき彼の表情はどこか厳しげなものに変わっていた。
「・・・さっきから、話の途中でもおもってたんだが。『僕なんか』ってどういう意味だ?
お前、自分に自信がなさ過ぎるんじゃないか?」
 彼は歩みを止めてそう言った。
僕の目をまっすぐに見詰めている。
「でも・・・実際僕は何が出来るわけでもないですし。
迷惑しかかけられないような、無価値な存在ですから。
こうして生きてることだってホントはいけないことなんです。」
 僕の言葉に彼はとても悲しそうな目をした。
「僕は、ホントは生きてるべきじゃないんですよ。
親にだって捨てられて、養父母にも迷惑かけて。
そんな僕が生きる事自体罪深いことなんです。」
 自分でしゃべっていて、涙がでそうだった。
自分がどんなに無価値であるかは自覚しているつもりだが、それでも改めて口にすると悲しくなった。
「だから・・・」
 その続きをしゃべる前に、口がふさがれた。
僕のような犬系の獣人にはキスは向かない。
それでも昔から行われてきたであろうその愛情表現は僕にとってうれしいものであり、同時に意外なものでもあった。
「もう、それ以上言うなよ・・・。」
 悲しげな声。
「今、この瞬間は俺がお前を必要としてる。
お前が何を言われたか知らないが、誰かお前を攻めたのか?
『お前なんか死んでしまったほうが世の中のためだ』って、
お前の非を追及したのか?
俺が保障してやる。
お前は何にも悪くないんだ。
もっと、自分のために生きろ。
お前は、悪くない。」
 ロックは僕を力いっぱい抱きしめた。
こらえていた涙があふれる。
生まれて初めて自分の存在をはっきりと肯定されて。
大切な人に必要だと言ってもらえて。
信じられないような言葉だった。
ゆっくりと彼の背中に手を廻し、抱きしめ返す。
「ホントに・・・?
必要としてくれるの?」
 ロックは大きく頷く。
僕は彼の胸であふれる涙をぬぐった。

 

 彼に手を引かれ僕は彼のうでの中に倒れこんだ。
彼がとった宿の部屋の、彼が寝ているベッドのなかに僕はいた。
彼の手が僕の背中をゆっくりと下りていく。
シッポの付け根を通り過ぎ、僕の尻をなでる。
やがてその手が尻の割れ目に押し入ってそこにある穴に触れる。
僕の体がびくんとはねた。
脅えたと思ったのか、彼は手を引いてキスの代わりに僕の鼻の頭をぺろんと舐めた。
僕は体をずらし彼の腹からゆっくりと手をおろし、股間に手を伸ばす。
剥き出しにされたそこは熱く脈打っていた。
僕を求めて震えるそれは、先端からうっすらと涙を流していた。
その液体を手に取り、やさしく全体をなでまわす。
彼の口から小さな喘ぎ声が漏れる。
彼もまた僕の股間に手を伸ばしてきた。
握られたモノは人に触れられるのが初めてで、
その刺激だけで弾けそうだった。
必死で耐えながら彼の鼻を舐める。
彼は再び穴に指を入れ内部をこすりながらいきり立つものを愛撫した。
「あっ・・・。」
 達してしまった。
彼の手と毛皮と、シーツに大量の白濁液を撒き散らした。
「ごめんなさい・・・。」
 だが彼は何も言わず笑顔を見せると無言のまま僕に愛撫を促した。
僕は自分で出した液を手にとると彼のモノにぬりたくりさらなる愛撫を開始する。
あまり自分でしたことはないけれど、どこがきもちいいかを必死で思い出してそこを重点的に攻める。
彼の息づかいが荒くなるとともに、手の中のものがさらに膨れ上がった。
体を起こし手を止めて、それを見つめる。
大きい。
暗闇の中でもその大きさはよくわかった。
「・・・あんまりみるな、恥ずかしい。」
 彼はてれながらそう言った。
照れる姿が可愛くて、その状態のまま再び愛撫を開始する。
彼は照れながらも僕の前ですべてをさらしてくれた。
快感に耐えるようにくねるシッポ。
こわばった手足。
荒い息づかいにとろんとした目。
愛しくて愛しくて、さきほど出したばかりの僕のものは再び力を取り戻していた。
彼の大きなモノに僕のモノをそわせ、二本同時にしごきだす。
「ああっ・・・ディラック!!」
 彼が手を伸ばし、二本同時に掴むと激しく上下に動かした。
「だめっ、ロック・・・ロック!」
 僕とロックの液体は、ロックの腹を、頭を超えて枕もとの壁にまで及んだ。

 

 結局朝方まで僕たちの行為は続いた。
一眠りして、太陽が昇ってくる頃に僕は大慌てで家に戻るとそのまま庭の掃除をはじめた。
これなら外にいても不思議じゃないからだ。
「ディラック、そんなとこはいいから早く朝食の用意を手伝いな!」
 窓が開いて養母の声が響く。
僕は適当に片付けると家の中に入った。
どんなに辛くても平気だった。
今日も会おうと、言ってくれたのだ。
昨日の夜を、今朝の事を思い出すだけで下着の中で熱く硬くなるものを僕はなんとかなだめながら仕事に集中した。
昼までにあらかたの用事を終わらせ、昼前にかいものに出かける。
ふと、あの子犬たちのダンボールが目に付く。
ゆっくりと近寄り中を覗き込むがそこには子犬はいない。
彼らが自分でどこかへいったのか、誰かに拾われたのか・・・。
僕にはわからなかった。
そして、音が聞こえた。
どこかそれほど遠くない所からどおんと言う音。
何かが崩れるような音や人々の喚声。
何かあったのだろうか。
北のほうからたくさんの人が走ってくる。
口々に「戦争だ!」だの「攻めてきた」といった言葉を発している。
・・・攻めてきた?
此処は北からの異民族侵入に備えて作られた城塞都市だ。
もしかして、本当に異民族が侵入してきたんだろうか。
ヒトの流れに逆らうように走り出す。
暫く走っていると、誰かが僕の手を掴んだ。
突然頬に平手が飛ぶ。
「早く逃げるんだよ!」
 養母だった。
僕を探しに来たのだろうか?
僕は養母に手をひかれその場から立ち去った。
・・・ロックさんはあそこで戦っているのだろうか?

 

 その日の夜、ロックは約束の場所にこなかった。
次の日も、その次の日も。
どれだけまってもロックは現れなかった。
ある日、記憶を頼りに『氷室』へ言ってみた。
そこには例のマスターが一人だけ。
彼は何も言わずに僕に一枚の紙を手渡した。
ただ「すまない」とだけ書かれた手紙。
マスターにいくら聞いても彼の行き先はわからなかった。
それでも彼は保障してくれた。
ロックは生きていると。
ロックは言ってくれた、『自分らしく生きろ』と。
だから僕は決めた。
彼を探そうと。
彼を探してどうするかは決めていない。
ただ、とにかくもう一度会いたい。
会わなくちゃいけない。
だから。
僕は、旅に出る。
夜空を見上げて、生きるために。
夢幻のウチュウを感じるために。