ススムが落ち着くのを待っている間に俺は壁にもたれかかりそっと目を閉じた。
そのままの姿勢で数十分。
睡眠と違い意識は保ったままだがそれでも十分休息にはなる。
そろそろだろうと目をあけ、そのままの姿勢で各人の挙動を観察する。
犬は、鞄を漁っては自分の分の保存食を食べていた。
この先どれだけあるかわからないが、まあ地下三階ならもう目と鼻の先だ。
地図から察するに隠し通路の先が3日も4日もかかるような巨大なことはないだろう。
食べたければ好きなだけ食べればいい。
視線を横にずらす。
ミミミは静かに座り、自分のツメをじっと見つめていた。
先ほど自分を傷つけるのに使っていたところを見ると、武器の役目でも果たしているのだろうか。
右手すっとを伸ばし、左手の人差し指に触れる。
…逆剥け剥いてるだけだった。
で、肝心のススムは…。
なぜか正座していたりするが、どうやら落ち着いてきたらしい。
先ほどより顔色はよくなってきたし、体もほぐれてきたようだ。
呼吸も落ち着いている。
そろそろ出発だな。
そう思ったとき、丁度ススムが口を開いた。
「足、痺れました…。」
正座してるからだ…。
俺は小さくため息をついた。
もう数分様子を見るか。
と言ってもすることがない。
しょうがなく俺は自分の手を見た。
見るたびに襲う違和感。
ようやく忘れてたと思っていたのに再び俺を苛むこの感覚。
考えるんじゃなかった。
俺は首を横に振りその考えを追い払う。
考えたって仕方のないことだ。
「いくか。」
俺は立ち上がっていった。
犬もミミミもこちらを見上げて頷く。
「はい、もう大丈夫です!」
ススムが立ち上がって叫ぶ。
いや、モンスターに見つかるから叫ぶな。
「んじゃいくか。」
俺はのっそりと立ち上がる。
ミミミも俺に続くように立ち上がり、犬は慌てて荷物をまとめている。
目的地は地下三階、現在位置は地下二階。
階段は…。
俺は一階を歩いていたときのことを思い出す。
入り口から入って歩いた方向、距離。
それに落とし穴の場所。
「こっちか。」
俺はバーサーカーが倒れている方向に足を向けた。
二階にある階段は一階へと通じる上りと、三階へと通じる下りが一つずつ。
それぞれの階段は二階の端と端に位置しているから、一階を歩いていたときの方向を考えて逆に進めばいい。
この辺りは普段通る道ではないから正確な道はわからないが、まだ複雑な地形でもない。
方角さえわかっていればやがてたどり着くだろう。
「そういえばススムさん。」
後ろでミミミが口を開いた。
どことなく声が低いのは辺りを警戒してのことなのか、たんに癖なのか。
もっとも気になっているのはそのことよりもミミミの話の方向だが。
「貴方、不治の病でしたよね?」
ススムの答えが遅れた。
ややあって、小さく「はい。」とだけ答える。
病人がゆえに触れられたくないことだったのだろうか。
だがそれはまるで嘘がばれた子供のようにも思える。
「私が見たところ、貴方はとても健康そうです。
地下にもぐって歩き回っても疲れた様子すら見えない。
一体何が問題だと言うのです?」
ミミミは事の真偽を問い質すつもりのようだ。
確かにそこは気になっていたことではある。
だが今、あえてそのことに触れる意味があるのだろうか。
「僕は…。」
ススムが呟いた。
答えに詰まっているのは答えるのが辛いからか、それとも言い訳が思いつかないからか。
「本当は、歩くことさえ出来ません。」
その声は悲しみに溢れていた。
自分の境遇をようやく思い出したかのように。
どこまで本気なのか、俺には判断がつかない。
「こちらの世界に来たときに、僕は新しい体を借りたんです。」
体ってそうほいほいと借りれるものだろうか。
仮に借りられるものだとしても、誰に借りたと言うのだろう。
0から造ったものならそのまま貰い受ければいいし、既存の物を借りているのなら貸した人間は体をなくしているのだろうか。
「だから今健康なのは一時的なものです。
僕が欲しいのは本当の…」
「階段だ。」
俺の言葉でススムの言葉が遮られる。
足を止めた俺たちの前には、地下三階へと続く階段が伸びていた。
この階段に罠はない。
俺は迷わず足を踏み込んだ。
階段だけは他の場所と違い薄暗い。
後ろから差し込む光に、大きな影が壁に映し出された。
四人分の足音が薄暗く、狭い階段に響く。
階段は大きくカーブを描きやがて三階へとたどり着いた。
「ここが地下三階なんすねっ!」
犬が力んで言った。
間違いではないが、壁の色も崩れ具合も、それに道の幅も。
ほとんど二階とは変わりがない。
そんなもっともらしいセリフを吐いた所で盛り上がりようもなかった。
俺自身は何度も来ているしな…。
「さて、地図をもう一度見せてくれ。」
俺はススムを振り返る。
ススムは既に準備していたかのように素早く地図を取り出した。
いや、準備していたんだろう。
犬でもない限りそれくらいの予測はつきそうなもんだ。
俺はススムから地図を預かり、開いてみる。
地図は三階の一部と、その隠し通路から伸びる部屋のいくつかを記している。
この地形なら…すぐそこじゃないか。
「えらく都合がいいな。」
俺は地図から顔をあげて呟いた。
見ればススムが苦笑を浮かべている。
うむ、その気持ちは痛いほどわかるぞ。
「どうしたんですかー?」
犬が背伸びをしながら俺の手元を覗き込む。
まったく、話の流れについてこれない奴め。
ススムやミミミを見ろ。
しっかり把握して…。
ミミミが不思議そうに首をかしげていた。
なんだよススムだけじゃないか。
しょうがなく俺はもう一度地図を広げた。
「うーん、三階の地図がわからないからいまいち場所がわからないですねえ…。」
ミミミが不満そうに呟く。
まあ俺は何度も歩いているから三階の地図が頭に入っているが、
そうでもない人間はそうそう場所の想像がつかないだろう。
「あれ…?」
違和感を感じた。
ミミミも犬もススムもこの遺跡は初めてだ。
俺が道案内をするからと特に地図を広げて確認もしていない。
なぜ、ススムは俺の言いたいことがわかったんだ?
俺の「都合がいい」は三階の地図とこの地図の両方を照らし合わせて始めて理解できるものだ。
昨日の夜のうちに各自で確認していた可能性はもちろんある。
組合から地図を入手していれば、隠し通路の地図を持つススムは事前に確認できただろう。
…いや、地図だけでそんなに正確に把握できるものか?
そもそも俺は「都合がいい」としか言っていない。
同じ感想を抱いていれば言っている内容に察しがつくかもしれないが…。
うーん。
「行きましょう、ケインさん。」
ススムの声で俺は我に返った。
呆然と考え事をしていたらしい。
俺は取り繕うように歩き出した。
俺は油断しないように辺りをうかがいながら、ちらりとミミミを振り返る。
目が合った。
先ほどのこと、ミミミは気付いているのだろうか?
ミミミが微笑みながら小さく頷いた。
俺は視線を前に戻す。
「この辺は何もでないんすねえ。」
犬が感心したように呟く。
そもそもこの辺りで出会う方が運が悪い。
地下一階から三階まで真っ直ぐ進めることも珍しくないのだから。
「まあ、誰も叫ばなければそうそう見つかることもないだろ。」
そういって俺は犬を振り返る。
コイツが一番足を引っ張ってくれそうなんだが。
視線を戻す際に、もう一度ミミミを見た。
既に彼女の視線は俺から外れている。
先ほどの事をどこまで気付いているのかわからないが、彼女は俺に情報を集めようとしているフシがある。
昨日の夜に話したことや、先ほどの病気についての会話もそうだろう。
あくまで俺の聞いている前でそういう話をしたかったのだ。
だがやはり今である必然性は感じられない。
これではまるでこの先俺かススムがいなくなるかのようだ。
何か、彼女なりの予感でもあるのだろうか。
「ここですかね?」
ススムが壁に手をついていった。
考え事をしている間に隠し通路に着いたらしい。
「地図だとどうなってるんだ?」
俺はススムに預かりっぱなしだった地図を開く。
ざっと目を通すが、隠し通路の存在は書かれているもののその開き方は書かれていない。
「壊すか。」
俺はナイフを一本手に取ると、逆手に構えてそのまま石の継ぎ目に衝き立てた。
がり、と音がして壁の一部が小さく欠ける。
それでも俺はあきらめず、何度も何度もナイフを振り下ろした。
ここに隠し通路があると確信していなければ出来ない行為だ。
たしかにこれでは見つからなかったのもしょうがないかもしれない。
「この野郎っ!」
俺はなかなか崩れない壁に腹をたてて思い切りナイフを振り下ろす。
その一撃で、大きく穴が開いた。
『おーっ。』
後ろから歓声が上がる。
というかお前ら手伝えよ。
穴さえ開いてしまえば後は楽だった。
手を突っ込み壁をつかんで、思い切り引く。
それだけで大きな塊がごっそりと取れた。
何度も何度も大きな塊をちぎっては投げ、ちぎっては投げ。
人が通れるほどの穴を作るのに時間はかからなかった。
「これで…ハァ、いいだろ…。」
疲れた…。
壁を素手で壊すのなんて初めてだから、体力のペース配分も考えていない。
俺はすっかりへとへとになってしまった。
「さあ、どんどん行くっすよ!」
犬がこぶしを振り上げる。
殺すぞ。
犬とススムが前を行き、ミミミが後ろから。
そして最後尾にへとへとになっている俺が続く。
…まて。
この並びはまずくないか。
「あ、壁に何か書いてるッスよ!」
「ほんとですねえ。」
能天気な先頭二人が壁に駆け寄る。
ま、待てっ!
言葉にならない。
危ういことに気付いたミミミが慌てて駆け寄った。
「お二人とも、ちょっとまっ」
遅かった。
大きな音を立てて鉄格子が落ちてくる。
鉄格子…いや、これは鳥かごか。
巨大な鳥かごは俺を除く三人を閉じ込めていた。
「くそう、オリの好きな奴め…。」
俺は鳥かごの柱をつかみガシャガシャと揺らしてみる。
しかしとてもではないが一人で持ち上がりそうにない。
他のメンツに力仕事は期待できないし…。
「ケインさん。」
ミミミの声に顔を上げる。
ミミミは壁に書いてある何かを読んでいた。
白い線はどうやら文字というよりは地図になっているらしい。
「これ、この罠の解除方法みたいですよ。」
「…なんの嫌がらせだよ。」
つまり罠の解除方法を見に行ったら罠にかかるわけだ。
それ意味あるのか?
「ここから少し離れたところに解除するためのスイッチがあるみたいですね。
申し訳ありませんがこれ書き写しますので行ってきていただけません?」
まあそれが現実的な判断だろう。
俺とミミミの立場が逆でもそうする。
…が。
「犬よ。」
俺の言葉に犬がびくっと跳ね上がった。
申し訳なさそうな顔をしながら上目遣いでこちらを見ている。
「ちょっとはよぉ、
用心しようって気はねえのか!?」
思い切り力を込めてにらみつけてやる。
犬は尻尾を丸め震えながら頭を抱え込んだ。
こいつ、ここにおいていったほうがいいんじゃないだろうか。
「すみませんケインさん、お願いします。」
ススムが一歩前に出て俺に深々と頭を下げた。
ぐ、依頼主にこういうことをされては動かないわけにはいかない。
「後で覚えてろよ、犬…。」
俺はもう一度犬をにらみ付けると、ミミミから書き写された地図を受け取り三人に背中を向けた。
さっさと終わらせて戻ってこよう。
でないとこいつら危なすぎる…。
俺は一人走っていた。
たまにミミミから預かった地図を見ては方向を確認し、再び走り出す。
曲がり角を右に左にと曲がり、どんどん進んでいった。
途中たまたま出くわした吸血コウモリを足を止めることなく切り落とす。
後ろの方でコウモリが地面に落ちた音がした。
「まったく、なんだよこの距離は。」
既に走り出してから10分ほど経っている。
あの三人を連れて歩いていたら軽く数十分はかかっていただろう。
…やっぱ一人が楽だよなあ。
ナイフベルトから一本ナイフを抜き取り、壁にいた大きなクモに向かって投げつけた。
体液を撒き散らし、足をひくつかせ壁に縫いとめられたままでクモは絶命する。
もちろんそれを確認することもない。
その間にも地図を確認し、どんどん先へと進んでいく。
ここからまっすぐ行って…次を右か?
「ここ…か。」
無駄に広い空間に出た。
今までの廊下がはば3メートル弱、大人二人が並ぶのが限界くらいだった。
それに対してこの部屋はかるく10数メートルはある。
天井だけは通路と同じかやや高いくらいだろうか。
3メートルはないだろう。
よく見れば床に魔方陣のようなものもある。
かなりボロボロになっていて魔法装置特有の燐光も見られない。
念のため石を拾って放り投げてみるが特に何事もない。
死んでいるのか、発動条件を満たしていないのか。
「ま、いいだろ。」
魔法陣自体はそう大きくない。
部屋の隅を通れば十分に迂回できるものだ。
俺の目的地は部屋の向こう側に見える通路の先にあるらしい。
念のため用心したまま、俺は大きく迂回して部屋の反対側にたどり着いた。
「故障か…。」
俺は部屋の中を振り返り何事もないのを見ると再び走り出した。
もう解除装置は目の前だ。
やがて通路がぷっつりと途切れる。
分かれ道もなにもない、完全な行き止まり。
地図上ではこのあたりのはず…。
「よっ!」
俺は壁のでっぱりに手をかけ思い切り引っ張る。
がらっと音がして壁の一部がはがれた。
覗き込むと小さな穴の奥にレバーのようなものがある。
これだろうか。
俺はポケットから厚手の手袋を取り出してそれをはめると、おもむろに手をつっこんだ。
中のレバーを握り思い切り手前に引く。
「かっ…てえぇ!」
レバーはびくともしない。
壁に手を突っ張り全力を込める。
「ぬぬぬぬぬぬぬ…!」
レバーが動く、というよりも壁のほうがミシミシと鳴り出した。
これは折れるんじゃないか。
俺は慌てて力を抜く。
これが壊れてはどうしようもないのだ。
力を抜いてレバーの上に手を置いた。
その瞬間レバーが円を描くようにまわる。
「…。」
俺はレバーの頭をつかみまわしてみた。
ギリギリと音を立ててレバーはまわる。
…まわすのかよ。
やがてガチンと音がしてレバーの回転が止まった。
それとともに、どすんと音がする。
地面が揺れたようなそんな感覚。
これでいいのだろうか。
俺は念のためレバーを軽くいじって、もう動かないことを確認すると今来た道を引き返し始めた。
ここからが勝負だ。
あいつらが動く前に戻らないと…!
やがて先ほどの大きな部屋にたどり着いた。
そこで俺は足を止める。
「なんだよこれ…。」
部屋の半分近くが謎の物体で埋まっていた。
いや、これは生物か?
よく見れば太い尻尾のようなものや手足のようなものがある。
ゆっくりとそれが振り向いた。
体型としてはトカゲに近いが。
「うわあ…。」
顔を見て俺は思わず呟いた。
どうみてもそれはウーパールーパーだった。
大きな口に焦点のあってない目。
それらが規格外にでかい。
顎は地面に擦れているのに頭の上までは軽く2メートルはあるだろう。
というかこれ、俺のこと見てるのか…?
どうしていいかわからずに呆然と見上げていると、奴の口がゆっくりと開いた。
でけえ口。
俺が丸ごと飲み込まれそうな大きさだ。
口の中で大きな舌がうごめいている。
次の瞬間、それが俺にむかって吐き出された。
「うおおおっ!」
咄嗟に横にとびそれをかわす俺。
振り返ってみれば地面が少しえぐれている。
というか舌だけこんな速いとか詐欺だ。
こんなもんまともに食らったら…
「ぬあっ!」
ニ撃目を必死で避ける俺。
ナイフを抜いてる暇もありゃしねえ。
とにかくかわす事に専念し、俺は相手の後ろ側に走りこむ。
舌の動きは速いが全体の動きは速くない、というか馬鹿みたいに遅い。
正直に相手をしてやる必要もない。
さっさとこの部屋を抜けてしまえばいいのだ。
突然視界が暗くなる。
何かが光を遮ったのだ。
俺は上を見上げる暇もなく後ろにとんだ。
直感だ。
俺が飛び退ったその場所を、大きな尻尾が打ち抜いた。
執拗に何度も何度も尻尾が叩きつけられる。
壁も天井も床も、なんの区別もなくただ暴れ続けていた。
こいつ…。
「なんとかしろってことか。」
俺は腰のククリを抜き、ベルトからナイフを手に取る。
その間にも奴は振り返り、長い舌で俺を捕らえようと襲ってきた。
「ちょっとは待てよ!」
俺は横に飛んでそれをかわし、もう一度大きくジャンプする。
目の前にある壁を蹴りさらに上へ。
その瞬間を狙って長い舌が俺に向かって伸ばされた。
壁に足をつけたまま、俺は思い切り右手のククリを振るう。
粘液にまみれたそれを斬ることはできず、なんとかはじき返すにとどまった。
舌が戻っている間に思い切り壁を蹴り、奴の頭上あたりの天井へととんだ。
そして左手に持っているナイフを思い切り天井に突き立てる。
先ほど壁を破壊したのでおおよその硬さに想像はつく。
ナイフが刺さり、それでいて天井を破壊しないような力加減。
上空から相手を見る。
全体を見れば10メートルくらいあるのだろうか。
とにかく頭と尻尾がでかい。
必死で上を向こうと頭を持ち上げているがこちらを見ることはできないらしい。
ちょっと可愛いかもしれん。
「どうすっかな…。」
相手に飛び掛ろうかとおもったが、妙に表面がてらてらと光っている。
滑るかもしれないというより、むしろ触りたくない。
となると…遠隔か。
俺は右手にもったククリをしまうと、ズボンのポケットにしまってあるナイフを取り出した。
大腿部と脛の横にあるポケットから二本。
それからナイフベルトに残っていた二本を右手に持つ。
計四本か。
天井に差していたナイフがわずかに抜ける。
あまり時間はない。
「ふっ!」
俺は体をひねり、無理な姿勢のまま奴の目に向かって一本ずつナイフを投げつけた。
相手は気付いているのかいないのか。
気付いていても避けられないのだろう。
ナイフは寸分違わず奴の目を貫いた。
「ギャアアアアアアアアアアアア!」
奴が叫ぶ。
こいつ鳴くのか。
奴は痛みに悶えるように足と尻尾を暴れさせる。
これは…まずいか。
足や尻尾が叩きつけられるたびに遺跡自体が大きく揺れた。
衝撃をうけて俺のナイフが天井から抜ける。
「くそっ!」
結局コイツの上に乗るのかよ!
俺は両手にナイフを構え、落下する勢いでそのまま奴の脳天にナイフを突き刺した。
「ガアアアアアァァァァァァァ!」
奴が四肢をつっぱらせ、痙攣するようにして声を上げた。
俺は急いで頭を蹴り奴から離れる。
うえ、ズボンになんかぬるぬるしたのがついてる…。
やがて奴は糸が切れたように動かなくなった。
右手にもっていた一本をナイフベルトへとしまう。
どうやらもう用心する必要もないようだ。
「まったく…。」
ナイフはもったいないが、コイツに触ることを考えると回収はしたくないな。
俺は左脚のポケットにしまってあったナイフ二本を取り出しベルトへと補充する。
腰の後ろに挿していた分もバーサーカーに投げた際に紛失している。
咄嗟に扱えるのは残り三本か…。
俺は軽くウーパールーパーを振り返ると、奴の横をぬけて再び走り出した。
さあ、今度こそ合流だ。
続