柔道部





 窓から差し込む春の日差し。
かすかに聞えるどこかのクラスの歌声。
さっきから一文字も進まない黒板の文字。
先生のつけているコロンの甘い香り。
そして何より昼食を済ませて膨れているだろう腹。
全ての要素が、クラスを眠りに包もうとしていた。
実際に見渡すだけでも50%以上が既に机の上に突っ伏している。
俺の隣に座る女子のように頬杖をついて眠る者もいるのだから、
実際に眠っている人数はかなりのものだろう。
そんなことも気にせずに、古典の先生はおっとりとした口調で教科書を読み上げていた。
「今は昔、竹取の翁というものありけり、と…。」
 先生、さっきそこ読んだ。
俺の心の中のツッコミに気付くはずもなく、先生は同じ所を読み上げていく。
ていうか露骨に冒頭部なんだから気付けよ。
先生も頭の中寝てるのかなあ…。
じっとその顔を見つめるが、穏やかな微笑みが浮かんでいるには感情が読み取れない。
もともと感情は顔に出やすい人だし…、別に眠くないんだろうな…。
つまり同じ所を読み返してるのは天然ってことか。
そう思って改めて先生を見る。
読み返している事に全く気付かず、教科書を読みながら教室を歩いていく。
先生が通り過ぎた事で緊張が緩んだのか、ばたばたと机に倒れていく生徒達。
普通先生が歩いてたら、逆に目さめるよな…。
 不意に先生がにっこりと笑った。
そこでようやく、俺は間近にいる先生をじっと見詰めていた事に気がつく。
慌てて視線を下ろし、俺は先生から目をそらした。
太い首、厚い胸、大きなお腹。
柔道体系…というにはやや崩れた体格だ。
胸元には、開いたワイシャツの襟から覗く熊特有の月の輪の模様が見える。
なんというか…ここまで熊らしい熊もそうはいない。
そう思える見事な腹を見て俺はため息をついた。
視線を下ろして自分の腹を見れば、ややたるんだ腹が目に留まる。
まだ一般人だ。
中肉中背と十分言えるレベル。
それでも昔やっていた柔道をやめてからずいぶん弛んだ気がする。
改めて俺はため息を吐いた。
俺も将来先生みたいになるのかなあ…。
そう思ってゆっくりと顔を上げる。
先生はまだこちらを見ながら笑顔を浮かべていた。




「うーっ…。」
 終業のベルを聞きながら俺は大きく伸びをした。
しっぽを伸ばし、耳を震わせながら俺は全身をゆっくりと伸ばす。
目覚まし代わりになっているベルは教室に響き、寝ていた者の目を覚ましていった。
中にはまだ眠っているツワモノもいるが、じきに目を覚ますだろう。
わざわざ関与するほどの事でも無い。
そう思っていると、突然俺の肩に重い物がのしかかってきた。
「クロー。
おはよー。」
 横に目をやれば、寝ぼけた柴犬の顔があった。
まだ目は開いておらず、口の隙間から舌がはみ出している。
なんともだらしない顔だ。
「…クロはやめろ。」
 あきれたように俺はつぶやく。
そんなことも意に介さずに、犬は目をごしごしとこすっていた。
よくみれば口元の毛が微妙に固まっている。
…よだれか、よだれなのか。
「お前、俺の名前覚えてるんだろうな?」
 念の為聞いてみる。
その言葉に犬は頭を下に振り下ろした。
うなずいたつもりなら、下げるだけじゃなくて頭を持ち上げろ。
「松崎虎太郎ー。」
 うん、正しい。
記憶力はあるようだ。
「で、俺の呼び名は?」
「クロー。」
 間髪入れずに答えた。
そこには迷う余地すらない。
「…黒猫だから、クロか。」
 その言葉に犬は再び大きく頷く。
こんどはしっかりと頭を持ち上げた。
徐々に目も覚めてきたらしい。
しかしまあ、安直にも程がある。
「白猫だったらシロか。」
 犬はうなずいた。
くそ、なんだか腹立たしい。
「それよりさあ。」
 犬が話題を変えた。
俺も先ほどまでの思考を手放し、話の続きを目で促す。
「次の授業自習だよ。」
 そういわれて俺も思い出す。
確かに昨日の授業で『明日は先生がいないから自習』と言っていた気がする。
数学の授業はけっこう好きなんだがなあ。
そう言おうとした俺の手を引き、犬は俺を立ちあがらせた。
「いこー。」
「まて。」
 無邪気に俺の手を引く犬を振り払い、俺は犬を止めた。
不思議そうな顔をして犬は振り向く。
「そもそもどこに行く気だ。」
「職員室ー。」
 うん、だいたい後の展開は読めた気がするぞ。
読めた気はするが、ここは義理で最後までつきやってやるべきだろう。
…いや、面倒だからいいか。
「自習だから職員室にプリントとりにいくんだよな。
取りにいくのは日直のお前の仕事だよな。
俺は日直じゃないから教室で待ってればいいよな。
40枚もないはずだから一人でいけるよな。
よし、俺は行かなくてよさそうだ。」
 犬が口を挟む暇も与えず一つ一つの行程を検証する。
俺の言葉にいちいち犬は首を縦に振り、認めていく。
最後まで犬が肯いたのを見て俺は安心してイスに座り直した。
「でもー…」
 犬が不思議そうに首をひねる。
「行かなくてもいいけど、行ってもいいんだよ?」
 そう言って犬は俺の手を引いた。
いや、面倒だから行きたくないんだが。
そう言おうかとも思ったが、それすら面倒に感じる。
しょうがなく俺は犬に手を引かれるままに職員室に歩き出した。





「おい、タケト。」
「んー。」
 俺の呼びかけに犬は小さく声を出した。
だがそれに意味はない。
犬も俺も、ただ目の前の物から目をそらせないままに呆然とするしかなかった。
 俺達のクラスは40人弱。
自習用のプリントを作ったのなら40枚も印刷すれば間に合うだろう。
もちろん俺もその程度しかないと思っていた。
「なんだこの山は。」
「んー。」
 犬は呆けた答えしか返さない。
目の前にある紙の山を受け入れることができないらしい。
というかこれ何百枚…いや、何千枚あるんじゃないのか…。
「40人として一人百枚で四千枚か…。」
 俺の頭も麻痺しているらしく、なぜかそんな事をつぶやいていた。
「なるほど…。」
 ようやく犬が単語をしゃべる。
いや、なるほどじゃなくてな?
「とりあえず、運ぶか…。」
 その言葉に犬は何も答えなかった。
気持ちはわかる。
俺だってこんな紙の束運びたくねえよ。
つうか付き合うんじゃなかった。
そう思いながら俺はいくつもある紙の束の一つを抱え上げる。
「こ、これは…ッ!」
 相当重い。
紙の束というものが重い、ということは知っている。
だがこれほどまでに重いとは。
というか、前が見えない。
「クロー。」
 犬の間の抜けた声が聞える。
だが返事をしている余裕はない。
俺はそれを無視して一歩を踏み出した。
「崩れるよ。」
 え。
その言葉に俺は視線を上にあげた。
持っている紙の束が大きく揺らいでいる。
まずい。
そう思った瞬間に、衝撃は後ろから襲ってきた。
「うおおおお!」
 机に残っていた別の紙が雪崩れ落ちてきたのだ。
どさどさと音を立てて襲ってくる紙。
とっさによけることも出来ず、俺はその下敷きとなる。
「わー、生き埋め…。」
 犬は最後まで馬鹿だった。





 気持ちいい…。
俺は目を閉じたまま、ただその感覚だけを味わっていた。
一定のリズムで繰り返し訪れるその感覚は、目が覚めようとしている俺を夢の世界に押し返そうとする。
だが逆にその刺激の正体が気になって、俺はゆっくりと目を開けた。
「梅垣…先生?」
 俺の言葉に先生はにっこりと笑った。
目を開けると、先ほどの古典の先生が俺の頭を優しく撫でていた。
目を動かして辺りを見る。
白いベッドやカーテン、先生の向こうに見える薬棚。
どうやら俺は保健室にいるらしい。
その間も先生はゆっくりと俺の頭を撫でていた。
「大丈夫?」
 その問いに俺は肯く。
先生はいつもの笑顔で俺を見ていた。
「よかった。」
 そう言って先生は手を止める。
俺の頭から先生の手がすっと離れた。
「あ…」
 俺の言葉に先生は不思議そうな表情を浮かべた。
俺の頭をみて、自分の手に目をやる。
言葉の意味を察したのか、先生は微笑みを浮かべて再び俺の頭を撫ではじめた。
頭を撫でられるなんて何年ぶりだろう。
そう思いながら俺はゆっくり目を閉じる。
先生の手が当った俺の耳が無意識にびくんと跳ねた。
気がつけば喉の奥からゴロゴロと甘えた声が響いている。
「かわいいねえ。」
 そういいながら先生は開いた手で俺の喉をかるくひっかく。
その刺激に俺の体は小さく震えた。
布団の下で、緊張したしっぽがせわしなく動いている。
久しぶりに感じる快感に、俺の股間が徐々に反応しだした。
慌てて俺は膝を立てそれを隠す。
いい年して頭撫でられて勃起なんて、さすがに恥ずかしい。
というか、勃起してるだけで十分に恥ずかしい。
それでも俺は頭を撫でられたままぼんやりと時間を過ごしていた。
「はい、おしまい。」
 そう言って先生が俺の頭から手を放す。
俺はゆっくりと目を開けた。
先生は相変わらずの笑顔を浮かべている。
「もうちょっとゆっくりしていった方がいいかもね。」
 そういって先生は立ち上がる。
思わず俺は先生のワイシャツを掴んでいた。
先生の腹の肉が手に触れる。
俺の心臓がどくり、と飛び上がった。
「せ、先生が運んでくれたんですか?」
 先生はゆっくり、大きく肯いた。
「ありがとうございます。」
 恥ずかしくて思わず視線をそらした俺の頭を、先生はぽんぽんと軽く叩いた。
大きな手が俺の頭を包む様に置かれる。
「んじゃ、またね。」
 それだけ言うと先生はのっそりと歩きながら保健室の扉に向う。
広く大きな背中と、むっちりと膨れ上がった尻を揺らして先生は出ていった。
その後ろ姿を見ていた俺は、もうしばらく布団の中にいようと頭からシーツの中に潜り込んだ。





 家に帰って、俺は迷わずベッドに倒れこんだ。
服を脱ぎ、既に硬くなっている場所に手を伸ばす。
思い出すのはもちろん、大きな先生の手。
目を閉じて、優しい先生の顔を想像しながら自分の竿を強く握る。
それだけで俺の全身を快感が貫くのがわかった。
俺は全身を震わせながら大きくなったそれを必死にしごき上げる。
先端から染み出した体液がこすれるたびにぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てた。
「先生…。」
 俺の頭の中では、先生は積極的だった。
片手で俺のモノを掴み、片手で乳首をつまみ。
そして首筋に顔を埋めたまま俺をどんどん追いつめていく。
大きな体で俺をつぶさぬ様に気をつけていても、それでも重い体がのしかかる。
俺は先生の大きな背中に手を回しただあえぐ事しか出来ない。
先生は優しい笑顔を浮かべたまま、好色な瞳で俺を見上げる。
視線を俺の顔から離さぬまま、ゆっくりと先生は下に降りていく。
俺の乳首を、へそをなめながら確実にある点を意識しながら。
やがて、先生の鼻先が俺の先端に触れた。
それだけで俺の頭は真っ白になる。
先生はそれを握ったまま、焦らすように匂いをかいでみせた。
恥ずかしい。
とっさに俺は腕で表情を隠した。
「大丈夫だよ。」
 そう言って先生は俺の腕を取り、隠していた顔を再びみつめる。
ずっと下、俺の足元の辺りに見える先生のモノは既にこれ以上ないほど硬くなっていた。
それをみて俺も安心感を覚える。
「先生…早く、して。」
 恥ずかしさをこらえながら俺はねだる。
その言葉を待っていたように、先生は俺の竿を根元までくわえ込んだ。
「あああああっ!」
 強烈な刺激に耐え切れず、俺は一瞬で絶頂に達した。
びくんびくんと何度も震える。
その度に、俺の黒い毛皮に白い粘液が撒き散らされた。
荒い呼吸をしながら俺は自分のモノから手を放す。
オナニーをして、気持ちも落ち着きようやく俺は悟った。
「俺、先生に、ほれたんだなあ…。」





 次の日、俺は学校で一人ため息を吐いていた。
特に興味もない世界史の話を聞き流し、難しくもない化学式をノートに書き写し。
身の入らない授業をいくつか終え、俺は机に突っ伏していた。
昨日の先生の手が忘れられない。
また頭撫でて欲しい…。
そう思っていると、俺の頭にポンと手が置かれた。
「クロ、昼飯食べに行かないの?」
 同時に犬の間抜けな声が聞える。
俺は再びため息をつくことで犬に答えた。
それを見て犬は怪訝そうな顔をする。
意味が伝わらなかったのだろうか。
「いい、食欲がない。」
 そういって俺は顔の向きを変え犬から視線を逸らした。
何か考えているのか、呆然としているのか。
犬は何も言わず、またそこから動く事もせずに立ち尽くしていた。
ややあって、ようやく犬の声が聞える。
「…恋の病?」
 思わず俺の体がピクリと動いた。
犬に気付かれただろうか。
それでも俺は何事もなかった風を装って聞き流す。
「そっかあ、クロも大人になったんだねえ…。」
 しみじみと犬がつぶやいた。
お前は俺の何だ。
そもそも同い年だ。
そんなツッコミを入れる気力も起きぬまま犬のボケを聞き流す。
「大丈夫だよ、クロ!
俺が応援してあげる!」
 ものすごく不安だ。
むしろ応援がない方が有り難い。
「やっぱり恋は当って砕けろだよ!」
 砕けるのかよ。
まあ同性の教師に恋してる時点で砕ける確率は高いのは事実だが。
「かっこいいもんねえ、梅垣先生。」
 …。
まて。
え?
まて。
「…え?」
 ようやく絞り出した言葉はそれだった。
混乱して頭の中も何を考えているかわからなくなる。
俺自身ですら認めるのに時間がかかったのに。
というかそれ以前に昨日惚れてからお前とまともに会話するのはこれが始めてなのに。
「どこでどう判断してそうなるんだ…?」
 俺のもっともな意見に犬は不思議そうに首をひねる。
「違うの?」
 いや、まあ、なんというか。
そうだと堂々と言えるわけじゃないが違うともいい辛い。
「いや、根拠を教えて欲しいんだが。」
 話をはぐらかすようにして質問を続ける。
犬はしばらく考えた様子を見せ、口を開いた。
「他にクロが好きになりそうな人がいないから、かなあ…。」
 俺そんな露骨な性格してたっけ…?
これが噂に聞く天然の恐ろしさだろうか。
というかいきなりばれた。
「やっぱりあれだね、ここはもう果たし合いしかないね!」
「…は?」
 犬の発言に俺はついていけず、なんとかその一文字を絞り出した。
俺を見つめる犬の目は無駄に輝いている。
こいつ、こういうことになると嬉しそうになるのな…。
「先生は柔道部の顧問だし、クロも昔柔道やってたでしょ。
そしたらもう!
道場破りしかないよ!
看板奪っちゃうしかないよ!」
 いや、道場破りこそないだろ。
それに学校のクラブで看板はないだろ。
だが犬は無駄にテンションが上がっているらしい。
俺がつっこむ前に突然拳を握り締め、もう片方の手で俺の肩をばんばんと叩く。
「頑張ってね!
今から先生に申し込んでくるから!」
 そういって犬は嬉しそうに駆け出した。
「ま、まてっ!
勝手にそんなことをするなあ!」
 俺は慌てて立ち上がり犬の後を追う。
だが明らかに足は犬の方が速い。
みるみるうちに犬の姿は見えなくなり、やがて職員室につく前に俺の足が止まった。
もう…アホみたいな大声で道場破りがどうとか言ってるんだろうなあ…。
既に手後れだとはわかりつつ、試合の申込を取り消すために俺はとぼとぼと職員室に向った。





「クロー、がんばれー。」
 何故だ。
なぜ俺は柔道場にいるんだ。
しかも柔道着を借りてまで。
事の発端になった馬鹿犬はのんきな声で俺を応援している。
目の前には憧れの梅垣先生。
大きな腹を何とか柔道着に包み込んで、俺の目の前に立っている。
すっげえ可愛い…。
じゃなくて。
「ホントにやるんですか…。」
 俺の言葉に先生は相変わらずの笑顔で肯いた。
あの後。
犬を追って職員室に入った俺は、もはやどうしようもない事態になっていることに気がついた。
話を聞いたであろう先生が嬉しそうな顔で俺に話し掛けてきたからだ。
笑顔で「じゃあ放課後な。」なんて言われた日には来ない訳にはいかない。
つまり先生もノリノリなのだ。
 柔道部の生徒が審判に立つ。
俺は諦めて先生と向かい合うと、深々と礼をした。
頭をあげて、再び先生を見る。
俺の心臓が跳ねた。
微笑みは消え、闘志をむき出しにした先生がいる。
いつもの穏やかな先生じゃない、俺に向かい合うひとりの雄。
その豹変ぶりに俺は思わずつばを飲んだ。
というか…。
かっこいい。
いつもと違う先生もいい。
思わず反応しそうになる俺自身を必死で押さえて、俺は先生と向き合った。
「はじめ!」
 審判の声と同時に先生が突っ込んでくる。
なんとかとっさに組み合うが、明らかに俺の反応は遅れていた。
柔道着を持った手が先生の体毛と大きく膨らんだ腹に触れる。
思ったより硬い…。
そんな馬鹿なことを考えていた瞬間。
俺の足が地面を離れた。
投げられる。
だが既に投げはかわせない。
俺は重心をずらし、二人の姿勢を崩す事でなんとか一本取られるのを防いだ。
しかし明らかに分が悪い。
先に体制が整った先生はとっさに俺を押さえつけ寝技に入る。
「ぐ…!」
 先生に押し倒されている、という事実に俺は動揺しうまく体に力を入れる事ができない。
それどころかある一点がぐいぐいと大きくなっていくのが手に取るようにわかった。
やばい。
先生の腕が俺の股間と密着してる。
これは…バレる…。
「一本!」
 時間が過ぎたのか、審判の声が響いた。
その声と同時に俺を締め付けていた先生の手が緩む。
そして、重い体がそのまま俺の上にのしかかってきた。
「ちょ…、死ぬッ…!」
 先生の背中をタップして、なんとか俺の生命の危機を相手に伝えた。
現在の状態に気付いた先生は、少しだけ体重をずらして俺から圧迫感を取り去る。
「まだまだ、かなー。」
 先生が耳元で囁いた。
というか、先生の腕が未だに俺の股間に密着している。
竿は明らかに勃起しているし、もはや先生にはばれているだろう。
というかひょっとして隠してくれているんだろうか。
「試合はいつでも受け付けてあげるよ。
また挑戦しにおいで。」
 耳元で先生はそう囁くと、ゆっくりと体を起こした。
それに合わせて俺も起き上がる。
なんとか静まった股間を気にしながら俺は先生と向かい合って礼をした。







「おしかったねえ。」
「どこがだ。」
 着替え終わって、よってきた犬の額をはたきながらそう突っ込んだ。
今回の勝負は明らかに俺の負けだ。
実力でも差があるのに、完全に動揺して俺には何も出来なかった。
「もっかいやろうね!」
 何故か犬の方が闘志を燃やしている。
おせっかい焼きなのだろうか。
「もう勘弁してくれ…。」
 俺の言葉に犬はえー、と声を上げて抗議した。
もうこんな恥ずかしい思いはごめんだ。
「でもさあ、クロが勝ったらキスしてくれる約束だったんだよ?」
 何度目だろうか。
こいつの発言で俺の思考が止まるのは。
「まて。
お前…先生にどこまで話したんだ…?」
 体がわなわなと震える。
答えが怖くて犬を振り返る事も出来ない。
「どこって…クロが先生をすきだーってことから試合したがってるよーってとこまで。」
「お、俺は試合したがった覚えはねえ!」
 ってそういうことじゃねえええええ!
内心自分に突っ込みつつも溢れる恥ずかしさで俺はその場にいる事も出来ず、全速力で走り出した。
先生に…バレてるーっ!





「あ、クロー。まってー!」
「うっせー馬鹿犬、こっちくるなあああああ!」
 もうあんな奴の顔なんか二度と見たくない。
俺は恥ずかしさをこらえるように、走って走って、走りぬいた。
どこにいくかも決めず、ただまっすぐに。
その後を馬鹿犬は、平然と追いかけてきていた。


                                         終