閑話03




「あれ?」
 僕は手にしたページをみて呟いた。
ページの表に目をやり、さらに裏返して目を通す。
…両方?
「どうかしたか?」
 僕の様子をみてガイアが声をかけてきた。
僕は困った顔をしながらそのページをガイアに差し出す。
彼も僕の行動に習い、表と裏を何度か見比べている。
 ページの中身は、表・裏ともに『世界』の記録であるようだ。
まさか裏表両面に違う話が存在するとは思わなかったけれど。
「確かに、珍しいことだが裏表共に記録みたいだな。
ん、表は挿絵も入ってるじゃないか。」
 ページをみながらガイアが確認するように言った。
確かに表には挿絵と思しきイラストが数枚描かれている。
だが僕の関心は、それよりもその内容に向けられていた。
「これ、同一人物の話なのかな?」
 僕の言葉に少し不思議そうな顔をして、ガイアはページの中身を読み進めていく。
読む限り、同一人物の話を描いているように思えた。
ただ少し気になるのは…。
「同一人物とも取れるが…、どっちが先かはわからんな。」
 その言葉に僕は頷く。
ガイアの言うとおり、この二つの物語の時系列が分からない。
表から裏に読むこともできるし、裏から表に読むこともできる。
表…便宜上そう呼ぶが、表の話では主人公の名前が記されていない。
それ故に、裏における主人公と同一なのか、それとも裏に登場する登場人物の一人なのか。
それすらも読者側としては判断が困難だ。
「ガイアはわかんないの、こういうの。」
 その言葉にガイアは困ったような顔を浮かべる。
ガイアは、僕が壊した『世界』の番人だ。
僕以上にこの『世界』に詳しいだろう。
「うーん…。
この記憶はあくまでその土地が持つ記憶だからな…。
俺自身の中にストックされているものじゃないんだ。
だから極論を言えば、同じ場所で全くの別人がこの話をそれぞれ作ったと考えられなくもない。」
「えー…。」
 なんか微妙に煮え切らない…。
でもしょうがないか。
ガイアが知らないんじゃ、たぶん調べようもないんだろうし。
 それよりも、ガイアの言葉の中に気になる発言があった。
土地の記憶、って部分。
「それじゃあ、土地の記憶ってどういうコト?」
 手の中でページを丸めながら、ガイアは少し考えたような表情を見せる。
そんなに難しいのかな?
なんとなくイメージはあった上での質問だったんだけど。
「言葉どおり、その土地で起こったことが記憶されてるんだが…。
普通の生物と違うのは、時系列にこだわらない部分があるところなんだ。」
 時系列に…。
「まあ生物でも感情に依存する部分はあるけれど、基本は古くなればなるほど呼び起こしにくくなるだろう。
でも土地の記憶は違う。
ただ純粋に、そこで起こった出来事に対する感情が左右するんだ。」
 少しだけ考えて、ガイアがいう意味を考えてみる。
「つまり、強い感情を持った人が多いほど、その土地に記憶されやすいってこと?」
「そういうことだ。
新しければ記憶として呼び起こしやすいって訳じゃない。」
 なるほど…。
自分で覚えるんじゃなく、そこにいる生物が土地に刻んでいくってイメージか。
しかし土地って随分と受動的な記憶の残し方してるんだなあ。
 そんなことを考えている間に、ガイアは記憶を『世界』へと返していく。
ガイアの手から二つの光が浮かび上がり、頼りなげに宙を舞う。
蛍のようなそれは、二つが絡み合うように飛び、やがて『世界』へと返っていく。
 ふと、思った。
ガイアは『世界』とどこまで共有されているんだろう。
自分では番人といっていたけれど、なんとなくあの『世界』そのものなんじゃないかとも思える。
もしそうなら、ガイアの記憶はどうやって作られるんだろう。
あの世界にいる人たちが刻むんだろうか。
それとも、自分で覚えるんだろうか。
もちろんガイアと『世界』が別の存在であれば気にする必要もないんだろうけど…。
「さあ、次にいこう。」
 今の僕には、それを確認する勇気はない。
もう少し先でいいだろう。
いずれきっとそれについて話す時はくる。
その時までは、また本を読み進めておこう。

次の物語に出会うまで。