閑話01




「ってエロ小説かよ!」
 僕はやっと見つけた『世界』のページを引きちぎりながら叫んだ。
不思議とそれは大きく破れることなく、一枚の綺麗な長方形となって僕の手の中に収まる。
そのページがあった本を閉じないように注意して机の上におくと、そのページをもったまま僕はライオンに歩み寄った。
「これでいいの?」
 一枚の紙切れを僕は彼に手渡した。
彼はそれにざっと目を通し、満足そうにうなずく。
「ああ、そうだ。
こうやって一つずつ集めてくれればいい。」
 そういいながら彼は手にもっていた本を置き、『世界』のある机に歩み寄る。
彼は歩きながら口を開いた。
「これはあの『世界』に住む人間の日常だ。
たまたま割れた部分、かけらとなる部分に住んでいた者たちの生活の記録。
場合によっては本人たちすら忘れた記憶を、こうして俺たちは記録としてみる。」
 彼は手の中にあった紙を握りつぶす。
手を動かして、少しずつ紙を丸めていった。
「それがどのような形であろうと、俺たちは文句をつける筋合いはないさ。
本人たちの意思を伺うことなく記録を見ているのだから。」
 そういって彼は足を止めた。
どうやら僕が文句をつけたことに対して答えを返してくれたらしい。
それにしたってねえ。
「僕にも心の準備ってもんがあるよ。」
 そういって彼に文句をつけると、彼はハハハと声をあげて笑った。
今度は先ほどと違う。
間違いなくそれは笑顔だった。
「そうだな、それは俺が説明していなかったせいだ。
そのことに対しては謝るよ。」
 そういって彼は手を開いた。
紙くずがあるはずのそこには、小さな光の珠がある。
光はゆっくりと浮かび上がり蛍のように彼の周りを飛び回る。
「さあ、自分の住む場所にお帰り。」
 そういうと、光は彼から離れてまっすぐに『世界』へと向かう。
そしてそれは一つの存在へ還っていった。
「これで、一つ。」
 彼の後ろから覗き込んでいた僕を振り返り、ライオン頭はそういった。
「さ、続けよう。
まだまだ『世界』のかけらはたくさんある。」
 そういって彼は椅子に座ると先ほど読んでいた本を再び手に取る。
僕もそれにならって先ほどの続きを読み始めた。
内容は、よくわからない物理学。
「ねえ。」
「ん?」
 顔を上げずに呼びかけた僕に、顔を上げずに彼が答える。
「あなたの名前は?」
 僕の言葉に彼は手を止めて僕を見た。
なぜか恥ずかしさを感じ、僕は必死で本を見つめる。
「…ガイア。
それがあの『世界』の名前であり、俺の名前だよ。」
 そういって彼は―――ガイアは再び本を読み始めた。
『世界』の名前であり、彼の名前。
どうして、同じ名前なんだろう?
その疑問を口にすることなく、僕たちは再び黙々と本を読み始めた。


次の物語に出会うまで。