過去に冒険者を主人公とするゲームは数多く出ている。
もちろん私もそのすべてを把握しているわけではないが、自分の経験上から言ってもその大半は
「どこかから流れ着いてきた」という設定であることが大半だ。
これはゲームが始まった時に、変にしがらみを持たないという点で非常に優秀である。
特に自分のキャラを設定することが多いMMORPGにおいては。
FFXIVもその例に漏れず、ある国に冒険者が到着するところから始まる。
古いプレイヤーなら真っ先にリムサ・ロミンサをイメージするだろう。
本サービス開始前のある一定期間は、そこしか最初の国が選べない時期があったのだ。
今作「あの日の贈り物」はそんな懐かしい始まりを彷彿とさせる。
本ゲームのプレイヤーならきっと期待を胸にゲームをスタートさせたことだろう。
友達と遊ぶために、新たな物語を知るために、派手な戦いをするために。
今作の主人公であるガラギアも同じように期待を胸にリムサ・ロミンサへと降り立った。
彼はガレマール帝国の属州、ボズヤに多く住む一族。
ロスガルと呼ばれる獅子顔の獣人である。
人混みに紛れながら、彼はリムサ・ロミンサへと足を踏み入れる。
だが彼の目的はここでは明かされない。
何を期待してここに来たのか、冒険者となっているのかすら最初は触れられないのだ。
こうして読者は、人混みに流されるガラギアの様に、翻弄されながら物語に巻き込まれていく。
広々とした港の描写から人の行きかう八分義広場へと場所を移し、彼はゴブリンの青年と出会う。
彼とのやり取りを通して、読者はようやくガラギアの人となりを知る。
ここではゴブリンが読者の代弁者となってくれるのだ。
スウィートニクスと名乗る彼はガラギアの緊張をほぐしながら少しずつ彼の目的を聞き出していく。
ここでのガラギアのセリフに、彼の目的が垣間見えているのだがあまりにも自然すぎて読み返すまで伏線だと気づけなかったほどである。
曰く「みんな同じ種族でほとんど同じ格好」だというのだ。
彼はそこにきっと飽きていたのだろう。
そこに対する熱意は、後半で本格的に触れられる。
そしてスウィートニクスが指さした先にいるのはもう一人のロスガル。
ここでガラギアはそのロスガルに対して多大な興味を示す。
てっきり人捜しに来たのか、あるいは――と考えるところなのだが。
先に言ってしまうと、ガラギアは彼のファッションに興味を示したのだ。
この声をかけた老人、歴戦の冒険者なのだがそこはガラギアにとっては大きな意味を持たない。
最初は「長命な同族が珍しい」と言っているが、それもまた口実に過ぎないだろう。
当方風の着物という故郷では見かけないファッションに惹かれているのだ。
そしてそれこそが、彼がわざわざ故郷から出てきた理由なのである。
莫大な富を夢見たのでも、胸躍る冒険に憧れたのでも、誰からも尊敬される栄誉を勝ち取るのでもない。
ただひとえに洒落た服装をするために。
現実世界において、ファッションは大きな趣味の一つである。
少なくとも「着飾るという行為」を知らない人は誰一人いないだろう。
だがエオルゼアにおいては少し意味合いが違う。
クエスト以外では平和な世界に見えるため忘れがちだが、命を懸けた戦いや、食うや食わずの生活をしている人たちもいるのだ。
そんな状況においてファッションを楽しむ、という行為はあまり歓迎されないだろう。
もちろん、エオルゼアにもそういった人たちは存在する。
ウルダハに行けば裁縫ギルドや彫金ギルドがファッションのための服や宝石を加工しているし、
本文中で言及しているミラージュプリズムもファッションのために作られた技術のはずだ。
だがそのために冒険者になろう、という人たちはやはり少数派のようである。
老人にも「変わりモン」とはっきりと言われている。
ガラギアの出身はボズヤの西方ということである。
ボズヤの北西に宗主国にあたる帝国は存在する。
であれば帝国からの支配も強固なものであったろうし、本人も「戦いにばかり明け暮れる生き方をしていた」と言う。
にもかかわらず、彼からは戦いに従事するのだという強い意志は全くと言っていいほど感じられない。
物腰も丁寧で、礼儀正しい。
人混みをかき分けるときもきちんと謝りながら走っているし、老人との会話も謝罪と自己紹介から始まる。
そして他者に対する偏見のようなものも一切感じられない。
初めて出会ったゴブリンに対しても(後ろから声をかけられて驚くものの)、相手の素性がどうこうよりも、自分が失敗していないことに安堵するくらいである。
この話を読んでいると、このような生き方を自分はできるだろうかと、省みずにはいられない。
それほどに彼はまっすぐに生きているのだ。
きっとそれだけ大切に、周りから守られて生きてきたのだろう。
愛されて生きるということはそれだけありがたいことなのだ。
そして話は揃いの眼鏡をもらって結びへと至る。
この眼鏡こそが彼のトレードマークであり、その性根を象徴するものとなっていく。
最後に描かれる水平線と空とが交わる描写は、きっとこれからの彼の道の広さを象徴しているのだろう。
戦いも冒険もたくさん経験するだろうが、それでも彼はぶれることなく自分のファッションを追求できる戦士となる。
この作者のスクリーンショットを見れば、それは疑う余地のない確定的な未来だとわかるだろう。
瓶太