ハウジングがテーマ、奉公人視点のお話。
45日間オーナーがハウジングに戻らないため、撤去直前となる風景が描かれている。
登場人物はほぼ奉公人とリテイナーのみ。
また文体は三人称ではあるが基本的には奉公人のみに主眼が置かれリテイナー側の心情は描かれないため、
話の主体は奉公人からオーナー=冒険者に対する心情が中心である。

舞台はほぼ件のハウジングのみに限定されている。
舞台を限定することは物語の広がりがその分狭くなるのだが、いかに登場人物がその場所になじんでいるのか。
また人と人の関係のみでなく、人と場所の関係を描くにはやはりこの方法が望ましいといえるだろう。

その鉄則に従ってというべきか、本作品においては奉公人とリテイナーがこの家にて暮らす様子が描かれる。
庭具から内装からきちんと描写されたうえで、奉公人はなんら迷うことなく道具を取り出し調理を行う。
そして冒険者から教わった調理法を、やはり当然のように行う。
それは彼が今までに何度もその方法をとってきたことの証左だろう。
リテイナーにしても同様に、上半身裸で筋トレを行う姿が描かれる。
リテイナーは場合によっては武器を取り戦う仕事だ。
にもかかわらず鎧や武器を手にした様子もなく、完全に無防備な姿をさらす。
戦いに従事する者にとって、これほど気を許した姿もないだろう。
これらの描写だけで、本作品では彼らがどれほどこの場所になじみ、愛着を持っているのかを表現しているのだ。

調理が終わり、二人はやがて夕食を共にする。
ここで二人の立場の違いがはっきりと示される。
リテイナーとして雇われているヒューランは、たとえハウジングがなくなっても契約は残る。
彼らは家がなくとも冒険者にとって必要だからだ。
だが奉公人は違う。
ゲームシステムとして、自宅やFCハウスがないものは奉公人と契約ができないのだ。
つまりハウジングが撤去されることは奉公人と冒険者の契約が立ち消えることを表している。
そして仕事として奉公している以上、彼は新しい雇い主を探すしかないのである。
ここがリテイナーと奉公人が決定的に違うところだ。

リテイナーは場所に対する愛着のみが失われる。
しかし奉公人は場所はおろか、気に入っていた主人との別れすらここで強いられる。
しかもその別れは明確なものではない。
いうなれば行方不明になった者の死亡届が出される状況。
そういった婉曲的な表現で、冒険者の死をにおわせているのだ。
まだ希望をもっていられるリテイナーと、死を受け入れなければならない奉公人。
あっさりと帰ってしまうリテイナーの態度はこの差を裏付けるものとみることができるだろう。
仲間だと思っていても、やはり自分とは違う立場であることを実感するのだ。
奉公人にしてみれば最初から一人だと思うよりも、なお孤独感を強めたことだろう。

その後一人になった奉公人は家を引き払う準備をする。
明かりを消された部屋は、場所の死の表現でもある。
物理的には残っていても、すでにその場所の機能が消えようとしているのだ。
かろうじて残る月明かりはその余韻でもある。

そこまできて、奉公人は過去の思い出に浸る。
明るいうちはやるべきことがあるが、暗くなれば仕事の時間は終わるというのが暗黙のルールだ。
彼は仕事としてこらえていた感情を月明かりの中でゆっくりと解き放っていく。
時系列にそって冒険者との思いでを語っていく。
具体的なセリフはほとんどないにも関わらず、この思い出だけで冒険者の人となりが見えてくる。
ここでようやく、読者と奉公人の思いがシンクロする。
ひた隠しにされていた奉公人の本当の気持ちを知り、読者の意識はようやく冒険者に向くのだ。

ここで冒険者にどのような感情を持つかは読者次第だろう。
いい人だったんだとしんみりする者もいれば、
どうして帰ってこないのだと怒る者もいるかもしれない。
そんな日常楽しかったろうなと思いを馳せる者も、
引き続き奉公人に視点を置いて、同情的な思いを持つ者もいるだろう。
だがそれらすべてはオーナーである冒険者を主軸にした感情だ。

そして奉公人は初めて明確に涙を流す。
ようやく自分の感情を知り、読者とともに何らかの感情を冒険者に向ける。
この瞬間から、奉公人は読者視点のキャラとなる。
そして冒険者に対して感情をぶつける手段でもある。

その奉公人が、話の最後にとる行動は読者の代理である。
この行動によって読者は自分の感情を処理し、カタルシスを得るのだ。

そういった点では非常にスタンダードであり綺麗に着地させている作品だろう。

だがその行動を読者は選べない。
つまり、奉公人の思い出でいかにして読者の感情をコントロールできているか、が評価の分かれ目となる。
冒険者に対してどれだけ愛着を抱かせ、奉公人にいかに同情させるか。
そしてそれがどれだけ成功しているかは、本作を読んだ人ならわかっていただけると思う。

最後に一つ、野暮なことを言わせてもらうなら。
ハウジング撤去にかかる45日は地球時間であり、エオルゼア時間に換算すればおよそ3年強である。

瓶太