Happy Birthday!
「そーいやさー。」
ベッドの上で漫画を読んでいたノブヤさんがつぶやいた。
「何?」
プレイしていたホラーゲームにポーズをかけて、俺はノブヤさんを振り返る。
黄色地に黒い縞模様のキレイな毛皮が灰色のシーツの上に横たわっていた。
…いや、もしかしたら黒地に黄色の模様が入ってるのかもしれないけど。
太い尻尾がぼふ、と音を立てて掛け布団の上にたたきつけられた。
「カズヤってもうすぐ誕生日じゃね?」
視線をこちらに向けることもなくつぶやいた。
なんだ、そんなことか。
「ああ、そだね。」
確か、今年で21になる。
20になると言えば酒がのめるとかタバコがすえるとか、色々あるし感慨深いものはあったけれど。
今年は特に大きな変化も思い当たらない。
興味を失って俺は再びゲームへと戻った。
ポーズを解除するとハァハァという荒い息がテレビから聞こえてくる。
画面に大きく映し出されるゾンビの姿。
「なんつったっけ、そのゲーム。
ブザー?」
読んでいた漫画を投げ出して後から俺に抱きつくようにしてテレビを覗き込む。
その仕草にオレは思わずどきりとした。
ノブヤさんから見えないところで俺の尻尾がぴくんとはねた。
「うん、なんか日本が舞台のゲームだね。」
そう言いながら俺はゲームを続けるが、ノブヤさんが後から抱きついているため落ち着いてプレイできない。
思わず、手が震える。
「カズヤ、手震えてるぞ〜。」
それに気付いたノブヤさんがからかうように言った。
別に怖いから震えてるわけじゃないんだけど、そんなこと言えるわけもない。
「そんなだからタテガミも生えそろわないんだよ。」
そう言いながら僕の頭にちょろりと生えているタテガミを引っ張った。
「や、やめてよ!
大切なタテガミが抜けちゃったらどうするのさ!」
コントローラーを投げ出して慌てて頭を押さえ込む。
獅子であるはずの僕の頭には、まだきちんとタテガミが生えてこない。
虎であるノブヤさんにはよくわからないかもしれないが、これはかなり恥ずかしい。
下品な例えになるが、包茎みたいなもんだ。
「ハイハイ。
そんなことより一人でトイレ行けるんだろうな?」
相変わらずからかうような口調で俺のことをバカにする。
俺も相変わらず不満を浮かべた顔で、軽くノブヤさんをにらむ。
もちろんノブヤさんは本気でバカにしてるわけじゃないし、
俺だって本気でノブヤさんに怒ってるわけじゃない。
まあ、要するにそういう関係なんだ。
ただ、ホントはそこで終わりたくない。
もちろんそれは俺だけの感情で、ノブヤさんにしてみれば俺はただの友達だろう。
でも俺にとって、ノブヤさんは初恋の相手だ。
そのことを自覚したときはショックだった。
初めての恋が同性である男だったのだから。
もちろん勘違いじゃないか、とか色々と悩んだ。
でも、結局自分の気持ちに嘘は付けなかった。
好きなんだ、彼が。
「よし、じゃあ今日は俺帰るわ。」
そういってノブヤさんは俺のベッドから立ち上がった。
来るときに羽織っていたウィンドブレーカーを拾い上げる。
「あ、帰っちゃうの?」
思わず俺の口をついて出た。
別に他意はない。
ただ、もうちょっと一緒にいたかったかな、と思っただけだ。
でもノブヤさんには違う意味に取れたらしい。
にやり、と下品な笑みを浮かべると俺の顔を覗き込んできた。
「なんだ、怖いのか?
トイレいけないのか?」
にやにやと笑いながらずいずいと顔を近づけてくる。
それにあわせて思わずのけぞる俺。
「そ、そんなわけないでしょうが。」
「なんなら一緒に寝てやろうか?ん?」
う、それは結構魅力的だなあ…。
でも恥ずかしいし、なにより怖がりなんて思われたくない。
「いらないって!」
「またまた。
よし、今日は泊まっていってやろう。」
そういって再びウィンドブレーカーを放り出した。
まあノブヤさんが突然泊まるってのは今に始まったことじゃないけど。
「明日の講義、何時からだっけ?」
俺が机に張り出している時間割を覗き込んでいる。
俺とノブヤさんは同じ学科で、同じ選択をしているので時間割はまったく同じである。
「3限の英語Bからだよ。」
そういって俺はゲームの電源を落とすとベッドに倒れこんだ。
あとからノブヤさんが覆いかぶさってくる。
「重いよー。」
と言うがもちろん嬉しい。
お尻の当たりに微妙に盛り上がりを感じたりすると思わず俺自身が反応しそうになる。
「俺の寝る場所がねーんだよ。」
そういって少し起き上がると俺の体を壁際に押しやる。
気付かれない程度に軽く抵抗して、なるべくノブヤさんとひっついてられるように位置を調整する。
「あんまり引っ付くと熱いぞ。」
「最近、夜中は冷えるしちょうどいいよ。」
「ふむ。」
納得したようで、特に文句もなく俺を抱き寄せた。
あ、こういうのはちょっと珍しいな。
顔が赤くなってるのを見られないように、そっと下を向いた。
ノブヤさんが掛け布団を引っ張りあげて、俺たちの上にかける。
「電気消すね。」
手をのばして電気のコードをつかみ、引っ張った。
一面の、闇。
ふと、目が覚めた。
まだ日が昇りきっていない時間帯。
目の前にはノブヤさんの寝顔があった。
んがっ、と小さないびきのようなものをかいている。
その手は俺の肩に回され、足も絡み付いてきている。
とてもセクシーだ…。
そっと足をまげて、膝で股間に触れてみる。
大きなふくらみがそこにあった。
ごくり、とツバを飲み込む音が大きく響いた気がした。
しちゃいけない…。
でも…。
理性が負けた。
俺の手が、ノブヤさんの股間に向かってそっとのばされる。
寝る直前に脱いでいたのか、寝てる間に脱いだのか。
ノブヤさんは下着一枚のようだった。
パンツの前面にある大きなふくらみに手が届く。
どっしりとした重量感と、もみ応えのある弾力。
もう俺のほうはギンギンだ。
しばらくそのまま揉み続けていたが、特に目が覚める様子はない。
いったん手を離すと、意を決して下着の中に手を進入させた。
…大きい。
現在半立ち状態だと思うが、それでもこの重量感は凄い。
視線を下に向け、覗き込めるように下着を引っ張る。
僕の目に大きな肉茎が飛び込んできた。
おいしそう…。
俺はノブヤさんの腕からそっと抜け出すと、股間に顔を近づけた。
気付いちゃうかな…。
でも、ちょっとだけ…。
俺は下着から引っ張り出したそれを、そっと口に含んだ。
少ししょっぱい味が、口に広がった。
舌触りがとてもおいしい…。
俺は必死になってそれにむさぼりついた。
俺の口の中でそれは突然形を変え始めた。
むくむくと大きくなり、俺の喉をつく。
慌てて吐き出し、咳き込む。
同時にノブヤさんが大きく寝返りをうった。
起きたのか、と慌てて顔を見るが目を閉じて寝息を立てている。
ほっと息を吐いた。
大きく足を広げた状態で、仰向けに寝ている。
股間からはへその上まで届きそうな大きなものが腹の上に横たわっていた。
俺は脚の間にそっと座り込むと再びそれにしゃぶりついた。
今度は喉の奥をつかれないように注意しながらゆっくりと根元と先端を往復する。
大きく開いた雁の裏側を下で刺激しながら、手で茎の根元をゆっくりとしごく。
気持ちいのだろうか、鈴口から先走り液があふれてきた。
俺は亀頭を嘗め回しながら少しずつしごく手のスピードを上げていった。
舐めれば舐めるほど、しごけばしごくほど先走りの量が増えていく。
空いた手ですぐ下に垂れている大きな袋を手にした。
中に二つ、ぐりぐりとした玉が感じ取れる。
どこに触れても大きく、逞しい。
ノブヤさんを咥えているだけで、俺が射精しそうだった。
一心不乱にノブヤさんを刺激し続けると、俺の視界の端で動きがあった。
大きな手が、強くシーツを握り締めている。
絶頂が近いんだ。
俺はノブヤさんを刺激するスピードを更に上げた。
「んっ…!」
押し殺した小さなうめき声が聞こえた。
それと同時に、俺の口の中に大量の液体が吐き出される。
一滴ももらすまいと、俺はそれを必死で飲み込んだ。
全て吐き出されたのを確認すると、俺はノブヤさんの肉茎を口から出した。
いまだに力を失っていないそれは大きく腹の上に横たわる。
それを手にすると再び根元から舐めあげ、丁寧に後始末をする。
一通り舐め終えると、ノブヤさんにパンツをはかせ俺はそっとベッドから離れた。
「おはよー。」
朝食の支度を終え、俺はノブヤさんを起こしに戻った。
下着姿のままベッドに腰掛けてぼんやりと床を眺めている。
相変わらず寝起きは悪いらしい。
広く、大きな背中にしなだれかかるようにして俺は彼の顔を覗き込んだ。
「ほら、寝ぼけてないで顔洗ってきなよ。」
「…なあカズヤ。
その…ああいうことするのが、好きなのか。」
時間が止まった気がした。
ノブヤさんが言っているのは…今朝したこと…?
動くことも、答えることもできない。
「男のモノ咥えるのがいいのか。」
真剣な顔で僕の目をまっすぐに見つめながらそう言った。
僕は必死で首を横に振る。
「違う…違う…。
俺は…俺…。」
何を言えばいいのかわからない。
とにかく同じ単語ばかりを繰り返してしまう。
「いつもあんなこと、してるのか。」
「違う!
俺はノブヤさんが好きだから!」
とっさに俺はそう叫んだ。
俺の続きを待っているのか、ノブヤさんは口を開かない。
もう、言い切るしかなかった。
「俺、ノブヤさんのことが好きなんだ。
男が好きとか、そういうのよりずっと前からノブヤさんが好きなんだ。
他のヒトにあんなことしたことなんてない。
俺は…。」
そこで言葉に詰まった。
ノブヤさんの視線が怖くて、じっとベッドを見つめる。
ギッ、と音がしてベッドがきしんだ。
ノブヤさんが立ち上がったのだ。
手早く服を身に着ける。
「…悪い、今日は帰る。」
それだけ言い残して、ノブヤさんは立ち去った。
涙が、あふれた。
それから数日は、学校に行くこともできなかった。
彼にあわせる顔がない。
学校を辞めることも考えた。
でも、俺の中に未練があった。
一週間たって、ようやく決心がついた。
もう一度きちんと謝ろう。
それでダメなら…全てあきらめよう。
人生を見失ってしまうような恐怖があったけれど、ノブヤさんなら許してくれるんじゃないかという希望があった。
今まで彼が怒った顔を俺は見たことがない。
だからこそ、あんなことがあっても許してくれるんじゃないかと言う希望があった。
講義室に入ると、ノブヤさんと目が合った。
俺は思わず足を止め、息を呑む。
前に歩く勇気がでない。
後から別のヒトが入ってきたため、しょうがなく歩みを進めた。
「…よう。」
いいにくそうにノブヤさんがそれだけを言った。
俺はそれに頷いて答える。
何を言うべきか、しばらく迷った。
「ノブヤ君。」
一人の女性が彼の後ろにたった。
振り返るようにしてノブヤさんは彼女の顔を見る。
「お。」
うちの学科でも美人で有名な女性だ。
実際俺の目から見ても長身でスタイルがよく、歩いているだけで颯爽とした雰囲気を感じさせる。
俺の感覚で行けば、彼女の横に並ぶにふさわしいのはノブヤさんくらいのものだ。
彼女よりも大きな身長に広い肩幅、逞しい腕に厚い胸板。
男としての魅力は十分だ。
「今度の土曜日デートしない?」
俺も赤面してしまうほど、魅力的な笑顔で彼女はノブヤさんに笑いかけた。
「ん、デートか…。」
予定があったか考えているのだろう、ノブヤさんはしばし空中をにらみ続ける。
俺はその間に教室を離れた。
一番見たくない光景を目の前で見せられて、耐えられなくなった。
家までの距離を必死で走った。
涙が、止まらなかった。
食事するのもめんどうで、俺は数日自分の部屋にこもり続けた。
泣いて、眠るの繰り返し。
もう、ここで餓死しても構わないと思えた。
土曜日は、目を覚ますとすでに夜だった。
もう日付が変わる。
ノブヤさんはまだ彼女とデートをしているのだろうか。
そう思っていた矢先、俺の携帯がなった。
ずっと無視していたけれど、なんとなく携帯に手をのばす。
ノブヤさんからだった。
出るべきかどうか、迷う。
迷い続けて、通話ボタンを押した。
まだ、未練が捨てられない。
「…もしもし。」
自分でも驚くほど弱々しい声。
「カズヤ!家の外でてろ!」
ノブヤさんが大きな声でそう叫んだ。
何か運動したのか、荒い息遣いも聞こえてくる。
「外…?」
「いいから早く!」
ぼんやりとつぶやく俺に、ノブヤさんはそう叫ぶと通話をきった。
俺はのろのろと体を引きずるようにして家の外に出た。
「カズヤーーーーーーーっ!」
叫び声が聞こえた。
はるか遠くにノブヤさんの姿。
俺はノブヤさんがいる方向にゆっくりと歩き出した。
ノブヤさんは全速力でこちらに向かっている。
ちょうど街頭の下で、ノブヤさんは足を止めた。
俺は街頭の光から外れる場所で立ち止まる。
ハァハァと荒い息をつきながら、ノブヤさんはまっすぐに俺の顔を見つめた。
そして、小さな包みを投げてよこした。
とっさにそれを受け止める。
紙の包装紙でつつまれた、質素な袋。
「…デートは終わったんですか?」
俺の口から出た言葉はそれだった。
先輩は照れたように頭をかく。
「ああ、あれか。
断った。」
予想外だった。
まさか断るとは思っていなかった。
「その…それ、買ってなかったからな。」
そういって僕の手の中にある包みに視線を投げた。
俺もつられるようにそれに視線をおろす。
「これは…?」
俺の言葉に、ノブヤさんは得意そうに笑う。
その時、ノブヤさんの腕時計がアラーム音をならした。
おそらく、12時を知らせるアラームだ。
「あああああああーーーー!」
その音を聞いてノブヤさんが大きな声を上げた。
思わず俺の体がびくっとはねる。
「畜生、日付かわっちまった。
…カズヤ。
一日遅れだけど、誕生日おめでとう。」
その言葉で、俺たちの間に沈黙が訪れた。
ぶっ、っと思わず俺は噴出した。
「な、なにがおかしいんだよ!」
顔を真っ赤にしてノブヤさんが叫ぶ。
「だ、だって…。」
必死で笑いをこらえながらおれは言った。
「誕生日、今日ですよ?」
「え。」
ノブヤさんの間抜けな顔が街頭の明かりに照らされていた。
俺はそれをみて再び笑いがこみ上げてくる。
ずいぶんと久しぶりに笑った気がした。
「あ…うー…、じゃあ間に合ったしいいだろ!」
その言葉を聴きながら俺は笑い続ける。
いつまでも笑い、そして泣いた。
笑っても笑っても、涙があふれた。
ノブヤさんが無言で俺を抱き寄せた。
腕の中で、強く強く抱きしめられた。
「誕生日祝う意味って考えたこと、あるか?」
胸に顔をうずめたまま、首を横に振る。
ちょっとしたイベント、くらいにしか考えたことはない。
「生まれた日を祝う、ってことはさ。
その…『お前が生まれてきて嬉しい』ってことを伝える手段だと思うんだ。」
俺はゆっくりとノブヤさんの顔を見上げた。
照れているのか、真っ赤な顔をあさっての方向に向けている。
「俺は、お前が生まれてきて、お前に会えて感謝してる。
今おまえといれることが凄く嬉しい。
誕生日祝うってのは、そういうことじゃないか。」
それは…俺と同じ気持ちだって、そういうこと?
声に出して言いたい言葉も嗚咽に飲み込まれて口にすることができない。
ただその疑問に答えるように、俺を抱くノブヤさんの手に力がこもった。
涙は、止まらない。
「誕生日、おめでとう。」
完