勃発!アイスクリーム戦争
そっと目を開くと、見慣れた顔が目の前にあった。
こうやって見ていると本当に猫みたいだ。
濡れた鼻先に、俺は自分の鼻を押し当てる。
ひんやりとした感触が触れた部分から伝わってきた。
よく聞けば喉の奥でゴロゴロという音がしている。
それがいとおしくて、俺は目の前で眠る彼にそっと抱きついた。
裸の胸と胸がふれあい、相手の鼓動が届く気がする。
朝っぱらからこんなに幸せでいいんだろうか。
突然がらりと障子が開いた。
俺はその音に固まり、腕の中の彼はその音にぼんやりと目を開く。
「朝ごはん、できてるけど。」
そういって顔をのぞかせたのはこの家の娘、月嶋風花。
彼女は羞恥心がないのか、単純に慣れているだけなのか。
よく俺たちの部屋に乱入して裸を見ているが、取り乱した姿は一度も見たことがない。
「あ、うん…ごめん…。」
とはいえ俺の方はそうそうなれるものでもない。
なんとかそれだけ返すと風花は満足したようにうなずいた。
「私はこれから講義あるから、片付けは自分でお願いね。」
そういってカタンと音を立てて障子を閉めた。
その音でようやく腕の中の彼が目を覚ます。
虎縞の毛皮に逞しい体、虎の顔に肉厚の手。
俺の腕の中で寝ている彼はどこからどう見ても虎獣人だ。
「おはよう、ランス。」
そういって俺は微笑む。
眠そうに目をこすりながら、ランスはやさしく俺の額にキスをした。
応えるように俺はランスの体に回していた腕に力をこめる。
「ところで。」
再び障子がガラリと開く。
学校に向かったはずの風花がそこに立っている。
俺とランスも再び固まった。
「数年ぶりな気がするけど。」
数年ぶり?
よくわからないけれど…。
「気のせい…じゃないかな…。」
「そう。」
…気のせいだよな?
「おはようー。」
服を着てから俺は台所に顔をのぞかせる。
テーブルの上には俺とランスの分の朝食が準備されていた。
「おう、おはよう。」
目の前に座っていたツキノワグマが手をあげて挨拶を返す。
どう見ても本物の熊だが、これがこの家の主の月嶋風神。
少なくとも俺たちが引っ越してきてからはずっとこの熊の格好をしている。
特殊メイクだか着ぐるみだか知らないが、廊下の角なんかで突然会うといまだに一瞬驚く。
「おはようございます。」
俺の後に続いて甚平を着たランスが入ってくる。
彼は相変わらずふんどしに甚平というスタイルだ。
いい加減ほかの服も買ってあげようかとも思うのだが、本人はそれなりに満足しているらしい。
まあ街中に出て試着して見るわけにも行かないしなあ…。
そんなことを考えながら俺は席に着いた。
「いただきます。」
隣でランスが手を合わせて言った。
あわてて俺も手を合わせる。
一人暮らしが長かったせいか、そんな習慣は俺には残っていない。
なんとなく恥ずかしくて俺は無言で食べ始めた。
「ヨシキ、今日はどうする?」
ランスが茶碗を片手に持ったまま聞いてくる。
「うーん。」
ランスはこちらの世界にきた、まさに異世界人だ。
仕事でも見つけられればいいのだが、見た目がどう見ても虎獣人だ。
今の日本でそんな姿で出歩くことなんてできるはずもない。
結果毎日家でだらだらしているだけだった。
そんな毎日だから、もちろん今日も特にビジョンなんてない。
どうでもいいけどランス、箸の扱いうまいな…。
「おはようございまーす。」
玄関から声が聞こえた。
聞き覚えのない声だ。
お客さんだろうか、と考えて席を立った。
今この家にいるまともな人間は俺しかいない。
ランスは先ほどから言っているようにどう見ても虎だし、人間のはずの風神さんもどう見ても熊だ。
もう一人この家には居候がいるが、彼の外見も人間のものではない。
俺がでないとここはまずいだろう。
「はーい。」
その返事は、俺の口から出たものでなかった。
振り返るがランスはもちろん風神さんでもなさそうだ。
まさか。
俺はあわてて廊下に飛び出した。
狼男が俺の前を歩いている。
「ちょっ!」
あわてて止めようとするが、それよりも先に玄関に向かう角をするりと曲がっていく。
角を曲がれば玄関からの視線が届く。
だめだ、見られた!
「あら大神さん、おはようございます。」
人のよさそうなおばちさんの声が聞こえた。
え…。
あの、叫び声とかは…。
恐る恐る角から顔を覗かせてみた。
「よう高野さん、相変わらずべっぴんさんだな。」
そういって大神君が後ろ姿でもわかるほど豪快に笑う。
えーと…、顔見知りなのかな…。
大神君の前にいるおばさんも笑っている。
確かになかなか美人ではあるが。
「あら大神さんたら相変わらずお上手ねえ。
はい、回覧板。」
そういっておばさんは手にしていた回覧板を差し出す。
「おう、サンキュー!」
大神君はそれを受け取った。
なんだこの主婦のやりとりは…。
俺は首をひねりながら食堂へ戻った。
しばらくして大神君が回覧板片手にやってきた。
「あ、大神君おはよう…。」
俺の言葉におう、と大神君が手をあげて応えた。
これがあと一人の居候の大神君だ。
本当は別の名前があるようだがすっかり「大神」という名前が定着している。
彼はその名が示すとおり狼男だ。
ふさふさの尻尾に長いマズル。
そして悪そうに笑ったときに見える牙がなんとも特徴的だ。
「ほい風神、回覧板。」
手にしていた回覧板を熊に手渡す。
無言で受け取った熊がそれに目を通した。
ひどく異常な光景を見ている気がしてしょうがない。
「地域対抗の運動会か…。」
熊が回覧板をテーブルに置いた。
確かにその内容は気になるところだけれど、それよりも気になることがある。
「えーと、さっきの人は訳知りなの…?」
俺の言葉に大神君が不思議そうな顔をする。
いや、一応俺たちはほかの人避けて生活してたんだしそんな不思議な顔されても。
「いや、ぜんぜん?」
「顔見せても大丈夫なの?」
思わず矢継ぎ早に質問を重ねる。
ランスはあまり関心がなさそうに黙々と目玉焼きを口に運んでいた。
「大丈夫っつうか…。」
一瞬困った表情を見せて、大神君はすっと風神さんを指差した。
導かれるように視線がそちらに移る。
ようやく納得した。
俺と大神君の視線に気づいて風神さんが不思議そうな表情を浮かべる。
…。
熊なのに不思議そうな表情浮かべるってどんな技術なんだろう。
「いや、なんでもないです。」
俺は誤魔化すように首を横に振った。
風神さんが昔からこんな生活をしているなら、ご近所の人も何度となく見ているだろう。
なら狼男をいまさら見たところで驚くはずもない。
そういう意味では暮らしやすい場所ではあるなあ…。
「ごちそうさま。」
一人で箸を進めていたランスが隣で朝食を終えていた。
俺も慌てて自分の分を平らげてしまう。
「っ!」
「ほら、慌てて食うからだ。」
ランスが優しく背中を叩いてくれた。
喉に詰まったごはんが胃へと落ちていく。
「うう、ありがと。」
涙がにじんだ目をこすりながら俺は顔を上げた。
ふと冷凍庫をあさっている大神君の後姿が目に入った。
何してるんだろう?
お茶を口に運びながら俺はなんとなくそれを眺めていた。
「よっしゃあああ!
バニラアイスゲットおおおおお!」
まるで宝物でも見つけたかのように大神君がそれを高々と掲げる。
その手には確かにカップ入りのアイスが握られていた。
というかそれ、昨日俺が買ってきた奴だ。
確か晩飯の後に食おうと思ってしまったまま忘れてたんだな。
「まて。」
ランスが立ち上がる。
横顔を見上げれば、まるで怒ったかのような表情を浮かべていた。
温和なランスにしては珍しく怖い顔だ。
「それはヨシキが買ってきたものだ。」
ピシッと大神君が手にしているアイスを指差した。
そうだけど…ランスって意外と細かいこと覚えてるね。
変なことに感心しながら俺はランスの続きを待った。
「お前に食う権利はない。」
ランスの言葉を大神君は鼻で笑い飛ばした。
露骨な態度にランスの眉がピクリとはねる。
「んなもん早いもの勝ちに決まってるだろうが。
食われたくねえなら名前でも書いとけ!」
そう言って大神君はどこから出したか、スプーンを一本こちらに見せ付けるようにして突き出した。
アイス食うためにそんなかっこつけなくてもいいだろうに…。
「そうはいくか!」
ランスが大神君の横をすれ違うように跳んだ。
音も立てずに着地し、振り返ったランスの手には先ほどまで大神君が持っていたアイスのカップがある。
どうやらあの一瞬で奪い取ったらしい。
えーと…、アイス一個くらい別に…。
だが俺が何かを言い出す暇もなく。
「ヨシキ、来い!」
俺はランスの小脇に抱えられていた。
コレはコレで密着具合がいいよなあ…。
落ちないようにそっとランスの腰に手を回し、たくましい腰つきを肌で感じる。
うん…なんていうか、いい。
俺がそんな場違いなことを考えている間に、ランスは俺たちの部屋に向かって走り出していた。
「てめえ、待ちやがれ!」
大神君が後を追う。
二人の足の速さは互角…いや、大神君の方が少し早いのかな?
体をひねり無理に後ろを見れば大神君が少しずつ迫ってきていた。
だがその速度は微々たる物だ。
すぐにランスが俺たちの部屋にたどり着いた。
俺を部屋の隅に畳んである布団の上に放り投げ、続いてアイスを俺に向かって放る。
布団の上に尻から着地した俺は咄嗟にアイスを受け止めた。
「ぬおおおお!」
その間に、ランスは部屋の端にあった箪笥を持ち上げる。
え、中身詰まってるのに一人でッ!?
ランスの腕の筋肉が一気に太くなり、目でみてもはっきりとわかるほどに浮き上がる。
「うおおおおおりゃあ!」
半ば投げるようにしてそれを障子の前に放り出した。
この部屋にある箪笥は二人分の衣服を入れる目的で大きなものを置いている。
確かにそれを障子の前に置けば、左右両方を、通れない程度にふさぐことは出来るだろう。
「ってなんじゃこりゃああああ!」
後から大神君が追いついてきたのだろう。
箪笥の向こうで障子が開き、続いて叫び声が聞こえた。
その間にもランスは篭城の準備を整える。
この部屋は古い和室らしく、三方が出入り口で囲まれている。
廊下に続いている障子は今ランスが箪笥でふさいだ。
残り二つ、襖が残っている。
ランスは続いて一本の棒を手に取った。
部屋の隅に立てかけてあったその棒は、普段ランスが鍛錬にと剣の代わりに振っているものだ。
襖の隣にそれを置き、開かないようにつっかえ棒として立てかける。
これだと反対側からなら開くんじゃ…?
そう思っていると、もう片方をランスが手で押さえた。
「え、あっちは…」
俺が言い終わる前に襖が動いた。
先ほど立てた棒が少しだけ曲がる。
外から大神君が開けようとしているらしい。
「畜生!」
がたがたとランスが押さえている側もしばらく揺れた後、ばたばたと足音が去っていった。
おそらくもう一つの襖から進入しようとしているのだろう。
そちらにはなんの細工もしていない。
「行くぞ。」
ランスがそっと俺の耳元で囁いた。
同時に、押さえていた襖をからりと開く。
そこにはもう誰もいなかった。
なるほど、最初からそういうつもりだったのか。
足音を殺してそっと歩くランスの後ろに俺も続く。
「いただきだっ!」
だが予想外の方向から声がした。
と同時に俺の手にあったアイスが姿を消す。
「上!?」
ランスが振り返りながら叫んだ。
ランスの言葉を聞いて俺も上を見上げる。
そこには天井からぶら下がった熊…もとい、風神さんがいた。
その手にはしっかりとアイスが握られている。
「引っかかったなバカ野郎!」
後ろから大神君の声がする。
どうやら作戦そのものが読まれていたらしい。
「風神さん、パス!」
取り戻そうとするランスの手をかわしながら風神さんは体をひねり、大神君の方を向いて。
にやりと笑ってから、天井裏へと姿を消した。
「へ…。」
大神君が間抜けな声を出す。
「組んでたんじゃないのか…?」
ランスも不思議そうに訪ねた。
二人とも予想外だったのだろう、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。
「風神さんもアイス、食べたいんじゃ…?」
俺のつぶやきに二人の視線が集まり。
『なるほどっ!』
二人の声が重なった。
仲は悪くても、気は合うのかな…。
「待ちやがれええええ!」
俺の背中を蹴って大神君が天井裏に身を躍らせる。
ちょっ…痛い…。
「どうするの、ランス?」
痛みをこらえながら俺はランスを見上げた。
こちらに視線を合わせず、ランスはじっと考え込んでいる。
先ほどまでは守る側だったのが今度は奪いにいく、いわば攻める側だ。
あらかじめ立てていた作戦はもう意味を成さない。
「ヨシキ、ちょっと天井裏を覗いてみてくれないか。」
そういいながらランスが俺の腰をつかみ持ち上げる。
う、鼻先が股間に当たる…。
大きくなりそうな自分をなんとか押し込めて、あいた天井に顔を突っ込んだ。
天井裏は薄暗いが、ところどころポツポツと穴が開いているのか光が下から差し込んでいる。
「どこいきやがったあああ!」
向こうで狭そうに動いてるのは大神君か。
でもここを覗いてどうしようって言うんだろう。
「風神さんはいるか?」
「いや、いないみたい…。」
暗くてわかりにくいが、先ほどから見ていても動いているのは一人しかいない。
長くふさふさした尻尾が見えるから、あれは間違いなく大神君だろう。
「よし、風神さんの所にいくぞ。」
そう言ってランスが俺を下ろす。
行くって、場所わかっているんだろうか。
ランスは迷わず歩き出す。
襖をいくつか開け、たどり着いたのは風神さんの部屋。
8畳の部屋に箪笥と机、そして壁につけられたたくさんの棚。
「うわあ…。」
俺は思わず声を漏らした。
その棚には虎や狼だけでなく、豹やライオンそれにパンダなど様々な動物の頭が並べられていた。
どうやら全て被れるようになっているらしい。
俺たちが越してきてからは熊しか見たことないが、他の動物に扮している時期もあったのだろうか。
「で、風神さんは…。」
気を取り直して辺りを見回すが、どこにも風神さんの姿はない。
ランスは無言で押入れに歩み寄り、襖を開ける。
「あ。」
風神さんがそこに座っていた。
ランスは無言でその手からアイスを奪い取る。
「大神ですらヨシキの背中を踏み台にして登ったんだ。
風神さんが何もないところから昇り降りできるはずがないだろう。」
…確かに。
でもどうして風神さんの部屋なんだろう。
他の部屋の押入れだって高くなっているのに。
ランスに続いて歩きながら俺は聴いて見た。
「…他の場所を、風花に怒られることなく改造できると思うか?」
ものすごく納得した。
「さ。」
台所に戻ってきたランスは、食器棚からスプーンを一本取り出す。
それを俺に手渡した。
どうやら食べろ、ということらしい。
まあ、気持ちはありがたいんだけどね…。
たまにずれてるよなあ。
そう思いながら俺はスプーンを受け取った。
「ぬあああああっしゃあああああ!」
奇妙な叫び声と共に、俺たちの横を何かが走りぬけた。
ふと手を見ればアイスが姿を消している。
「大神!」
ランスの叫びに視線を上げれば、四つ這いになり口にアイスのカップを咥えた大神君の姿。
どうやらあの姿のほうが速く走れるらしい。
「それを返せっ!」
呆然としている俺を置いてランスが飛び掛っていった。
その横をすり抜けるように何かが飛んでいく。
見事に大神君の口の間にあるアイスだけを弾き飛ばし、一本の矢が地面に落ちた。
振り返れば、熊の姿のまま弓を構えている風神さんの姿。
あ、アイス一つにそこまでする!?
「ちいっ!」
大神君が慌てて地面に落ちたアイスに飛びつく。
もちろんランスも、そして一番遠くにいた風神さんもだ。
皆の手がアイスに向かって伸びる。
相手の手をはたき、手にしたアイスを奪い取り。
何度も何度もその持ち主は変わり、最後にはアイスのカップは大きく放り出された。
「あ…。」
俺はそこで一番見たくないものを見た。
忘れ物でもしたのだろう、扉を開いた風花の姿。
そしてアイスは吸い込まれるように風花の頭へと落ちていく。
「ああああああ…。」
それは誰が出した声だったのだろう。
そんなことを考えている間に、風花の頭にアイスのカップが逆さまに乗った。
走り回り、握られている間にカップは歪み中身も溶けている。
蓋が開き、風花の顔に溶けたアイスが流れ出した。
完全に時間が止まる。
おそらくここにいる皆が認識している。
これは、一番迎えてはいけなかった結末だ。
「お前ら。」
凍った空気を打ち破るように風花がつぶやいた。
もっとも動いたのは風花だけで、俺を含むほかの四人は固まったままだが。
「ここに正座。」
一瞬顔を見合わせ、四人で並ぶようにして風花の目の前に正座する。
だが怖くて顔を見ることもかなわない。
これは…まさに地獄…!
「反論は認めない。
とりあえず、死ね。」
あまりの言葉に慌てて風花を見上げ。
…見なきゃよかったと後悔した。
「しばらくアイスは結構です…。」
縁側に座って夕日を眺める俺の隣で、震えながら大神君がつぶやいた。
あれから約半日。
風花の「おしおき」からようやく俺は立ち直っていた。
大神君と部屋にこもりっきりの風神さんはまだ立ち直っていないらしい。
おそらく俺とランスにはある程度手加減してくれたのだろう。
…アレ以上があるんだろうか。
「ヨシキ、晩飯はどうする?」
ランスが部屋から顔を覗かせて言った。
やや顔色が悪いのは、まだ立ち直っていないからなのか。
それでも笑顔を浮かべてくれるのは俺に対する優しさか、それともやせ我慢か。
「アイスは結構です…。」
大神君はまだ隣でつぶやいている。
ランスに任せるわけにもいかないし、かといって風神さんもまだ料理なんて余裕はないだろう。
風花が作ってくれるとも思わないし…。
「まってて、何か作るよ。」
そう言って俺は立ち上がる。
台所に向かおうとして、俺は足を止めた。
そういえば、まだ言ってなかった。
「ランス。」
俺の言葉に、部屋に戻ろうとしていたランスが振り返る。
そっと歩み寄り、手が届く距離で立ち止まった。
「ありがとう。」
なんとなく気恥ずかしくて、俺は自分の頭をランスの胸に預けた。
ランスの大きな手がそっと背中に回される。
「いや…次は度をわきまえる…。」
その声にはやはり力がない。
「うん…。
でも、気持ちが嬉しかったから。」
そう言って俺は顔を上げた。
ランスの柔らかい微笑が、夕日の色に染まっている。
俺とランスは、そっとキスをした。
「アイスは…結構です…。」
後ろから聞こえる大神君の声に、俺たちは顔を離し。
改めて顔を見合わせて、思わず声をあげて笑い出した。
終